【完結】ヴィスタリア帝国の花嫁Ⅱ 〜婚約破棄された小国の公爵令嬢は帝国の皇子に溺愛される〜
52.オリビアの嘘
「……お願い、ですか?」
「はい。お時間は取らせませんわ」
「…………」
(オリビア様が、わたしにお願い? それに、突然来られるだなんて……)
エリスはあまりにも予想外の状況に、すぐには返事を返せなかった。
なぜならオリビアのこの行動は、一般的に無礼とされるものだったからだ。
約束もなく、どころか、知らせひとつせずに訪問するなど、余程親しい仲でなければあり得ない。
まして皇子妃であるエリスに、アポなし訪問など許しがたいことである。
――などと使用人たちは考えているのか、あるいは、オリビアが以前アレクシスのことを慕っていたという情報を知っているからなのか。彼らは皆一様に、オリビアを警戒する様子を見せた。
もしエリスがこの場に現れなければ、エリスに知らせることなく、オリビアを追い返していただろうというくらいには。
だが――。
(連絡もせずに来るということは、そうしなければならない理由があったということ。オリビア様には恩があるし、話も聞かずにお帰りいただくなんてできないわ。それにオリビア様は、シオンが今どうしているのか、知っているかもしれない)
オリビアの願いというのが、リアムとの一件に関わりのあることだろうと予想はついていたけれど。
聞けば困ることになるかもしれないと、わかってはいたけれど。
それでもシオンのことや、今回の一件の詳細を知りたいと思っていたエリスには、オリビアを追い返すという選択肢は存在しなかった。
エリスは、一歩、二歩とオリビアへと歩み寄り、ニコリと微笑む。
「時間なんて気になさらないで。これからちょうどお茶にしようと思っていたところでしたの。よろしければ、ご一緒していただけませんか?」
何か言いたげな使用人たちを制するがごとく、エリスは侍女たちにお茶の準備をするように指示を出し、オリビアを宮の中へと招き入れた。