【完結】ヴィスタリア帝国の花嫁Ⅱ 〜婚約破棄された小国の公爵令嬢は帝国の皇子に溺愛される〜
53.空白の五日間
「どうして、あなたがいるの?」――と、呆然と呟いたエリスの視線の先には、オリビアの肩を抱くシオンがいた。
意識を失くしかけたオリビアに、
「大丈夫ですから。少し、眠ってください」
と、優しく声をかける弟の姿があった。
そんなシオンのオリビアへの対応に、エリスは困惑を隠せない。
この二人はいったいどのような関係なのだろう。
そもそも、宮の出入りを禁止されていたはずのシオンが、どうしてここにいるのだろう、と。
するとシオンは、エリスの考えなど全てお見通しというのような顔で、「失敗したなぁ」と小さく呟く。
「遠くから見るだけのつもりだったのに」と、腕の中で眠りについたオリビアを見つめ、困った顔で笑うのだ。
それはまるで、秘め事を知られてしまったときの様な横顔で、エリスは一瞬狼狽えた。
その眼差しが、いったい何に対する感情なのか、少しもわからなかったからだ。
だが、エリスはすぐに気を取り直し、二人の側に歩み寄る。
今は動揺している場合ではない、と。
自分はこの件について、全てを知ると決めたのだから。
「シオン、答えて。どうしてあなたがここにいるの? もしかして、オリビア様をここに連れてきたのは、あなたなの?」
聞きたいことは山ほどある。
この五日間、シオンはどうしていたのか。
侍女はちゃんと手紙を届けたか。
リアムの件はどうなったのか。
オリビアが今話した言葉の意味は――アレクシスを慕っていたというのが『嘘』だったとは、いったいどういうことなのか。
多くの質問を内包させて尋ねると、シオンは諦めたように溜め息をつき、オリビアを両腕に抱えた状態で、近くの花壇の淵に腰かける。
そうして、「姉さんも座りなよ」と、いつものような優しい声でエリスを誘うと、「どこから話せばいいのかな」と慎重に言葉を選ぶようにして、この五日間のことを語り始めた。