【完結】ヴィスタリア帝国の花嫁Ⅱ 〜婚約破棄された小国の公爵令嬢は帝国の皇子に溺愛される〜

54.感情の狭間で



(わたしは、どうしたらいいのかしら……)



 シオンとオリビアの馬車を見送ったエリスは、今、厨房にいた。
 今朝アレクシスと約束した、ミートパイを焼くためである。

 使用人たちは、「今日はお疲れでしょう? パイは料理人に任せて、エリス様はお部屋でお休みになられた方が」と気を遣ってくれたのだが、エリスは「何かしていた方が気がまぎれるのよ」と、譲らなかった。

 それに何より、エリスは理解していたからだ。

 確かにミートパイはアレクシスの好物だが、彼が望んでいるのは、『ただのミートパイ』ではない。
エリスの作った(・・・・・・・)ミートパイ』である、と。

 ならば約束どおり、パイは自分で焼くべきだろう。
 例え今、純粋にアレクシスを想うことができなかったとしても――。



 エリスは、午前中のうちに仕込んでおいたパイ生地をタルト型に成形しながら、先ほどのことを思い出す。

 シオンとオリビアが去った後、ようやくシオンに使いを出した侍女が戻ってきて、エリスに頭を下げたことを――。
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