【完結】ヴィスタリア帝国の花嫁Ⅱ 〜婚約破棄された小国の公爵令嬢は帝国の皇子に溺愛される〜

59.決闘開始



「――ッ」

 刹那、アレクシスは大きく目を見開いた。

 祈るように胸の前で両手を合わせ、恥じらうような視線を投げてくるエリスの姿に、動揺を隠せなかった。


「……エリス」


 ――ああ、こんなの反則だ。


 アレクシスの心に、形容しがたい感情がこみ上げる。

 それは、まさかこのタイミングで声を掛けられるとは思っていなかったという衝撃と、自分はエリスに許されているのだという安堵。

 それに、恥ずかしい思いに堪えてまで自分に勝利の祈りを捧げてくれたエリスへの、どうしようもない愛しさだった。


(俺は君を突き放したんだぞ。それなのに、君は……)

 今のこの状況で、しかもこれだけ離れた距離で、皇子妃であるエリスが声を張り上げてまで自分に声援を送る――それがどれだけ難しいことか。


 そもそも、エリスと共に行動するのを拒否したのは自分の方だ。

『集中したい』などと半分嘘のような言い訳をし、決闘開始ぎりぎりの時間に基地に着くようシオンの迎えの時間を調整した上で、基地に到着したエリスを自分のいる地上部ではなく、二階席に案内するよう部下たちに指示をした。

 本当にそれでいいのかと迷う心はあったし、セドリックからも指摘を受けたが、これ以上エリスと気まずくなりたくない。エリスを失望させたくない。という気持ちの方がどうしても大きかったからだ。

 だが、エリスは声をかけてくれた。ただ純粋に、自分の勝利を祈ってくれた。

 その事実に、アレクシスはどうしようもなく、胸が熱くなるのを止められなかった。
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