【完結】ヴィスタリア帝国の花嫁Ⅱ 〜婚約破棄された小国の公爵令嬢は帝国の皇子に溺愛される〜
61.降りしきる雨の中
一方、アレクシスは雨空の下、二階席のエリスの姿を視界の端に捉えながら、リアムの剣を受け流していた。
表情を曇らせ、こちらに不安げな視線を送ってくるエリスの様子に、小さな違和感を抱いていた。
(……エリス? 何故あんな顔を……)
そう言えば今しがた、エリスはクロヴィスと何かを話しているように見えた。
もしや、クロヴィスから不安を煽るようなことを言われたのではないだろうか。
(兄上め。――だから嫌だったんだ、エリスを兄上に会わせるのは)
もともと、アレクシスはエリスの立ち合いに反対だった。
その最たる理由は、エリスに決闘などという野蛮な場面を見せなくなかったからだが、もう一つの理由は、エリスをクロヴィスに会わせたくなかったからだ。
クロヴィスは人当たりがよく女性に紳士的だが、何を考えているかわからないところがある。
もし自分のいないところで、エリスにおかしなことを吹き込まれでもしたら――そう思うと、どうしても気が進まなかった。
だからアレクシスは、本来呼ぶ予定でなかったシオンを同席させることにしたのだ。
それに、急遽マリアンヌも一緒ということになり、それなら大丈夫だろうと安易に考えていた。
だが、そうは問屋が卸さなかったようである。