ヴィスタリア帝国の花嫁Ⅱ 〜婚約破棄された小国の公爵令嬢は帝国の皇子に溺愛される〜

9.初秋の朝


 社交シーズンも終わりを迎え、季節が夏から秋に移り変わったある朝のこと。
 エリスがいつもどおり食堂で朝食を取っていると、対面に座るアレクシスが言いにくそうに切り出した。

「実はな、エリス。三週間後に行われる軍事演習に、急遽俺も参加せねばならなくなったんだ。それで、しばらく……というか、演習が終わるまでは休みが取れそうにない。すまないが、約束していた街歩きは、演習から戻ってからでいいだろうか?」――と。

「…………」

 その言葉を聞いたエリスは、おもむろに、ナイフとフォークを持つ手を止めた。
 ――軍事演習、という聞き慣れない単語を頭の中で繰り返し、不意に思い出す。

(そう言えば、シオンが何か言っていた気がするわ)

 どこからそんな話題になったのかは覚えていないが、シオンがまだ宮に滞在していたとき、帝国の軍事演習についてこのように語っていた。

『この辺の国は毎年秋になると、帝国主導で合同軍事演習をするんだ。参加国は毎年変わるんだけど、今年はランデル王国も参加するって王国内で話題になってたよ。去年は第七師団が取り仕切ってたから、順番通りなら今年は第一師団かな』――と。

 その記憶を思い出すと同時に、エリスの脳裏に過ぎったのは昨夜のアレクシスの挙動不審な態度で、エリスはようやく腑に落ちた。

 ああ、なるほど、と。

(何か言いたそうにしているなと思ったら、こういうことだったのね)
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