ヴィスタリア帝国の花嫁Ⅱ 〜婚約破棄された小国の公爵令嬢は帝国の皇子に溺愛される〜
14.アレクシスのいない日々
「いってらっしゃいませ、殿下。お身体にはくれぐれも気を付けてくださいね」
「君の方こそ、俺のいない間に建国祭のときのような無茶はしないように。何かあれば、マリアンヌを頼るんだぞ」
「はい、心得ておりますわ。殿下のお帰りを、おとなしくお待ちしております」
「ああ、そうしてくれ。では行ってくる」
――翌朝、刺繍入りのシャツを装ったアレクシスを、エリスは笑顔で見送った。
そしてその日から、アレクシスのいない生活が始まった。
エリスは最初、アレクシス不在の一月の生活について、それほど心配はしていなかった。
食事や就寝時に一人になる以外は、アレクシスが居ても居なくても変わらない。夜の寂しさにさえ慣れてしまえば、普段通りに過ごせるだろうと悠長に構えていた。
そもそも、帝国に嫁いできたばかりの頃は一月もの間完全に放置されていたのだ。
あのときと今では状況が違うとはいえ、アレクシスが自分を思ってくれているとわかっている今は、当時よりも心に余裕がある。
それに、宮には沢山の使用人がいるわけで、寂しさを感じたとしても、気にするほどではないだろうと。
だが残念なことに、その余裕は三日も経たずうちに、脆くも崩れ去ってしまった。