ヴィスタリア帝国の花嫁Ⅱ 〜婚約破棄された小国の公爵令嬢は帝国の皇子に溺愛される〜

15.姉心


 帝国図書館に着いたエリスは、借りていた本を返却してから、待ち合わせ場所の談話スペースへと向かった。

 談話スペースとは、会話OKの読書スペースのことだ。図書館内の本は何冊でも持ち込み可能で、飲み物や軽食も注文可能な、読書カフェ的な場所である。

 区画は貴族、中産階級、労働者用と三つに区切られているが、貴族でここを使う者はほとんどいないため、待ち合わせ場所には最適だった。


「ではエリス様。わたくしはいつも通り、こちらで待たせていただきますので」

 談話スペース入口の外側で、侍女はいつものように待機する。
 貴族専用のスペースには、侍女と言えど立ち入れないためだ。

「ええ、戻ったら声をかけるわね」

 エリスは侍女と別れると、係りに案内された貴族用のスペースで、マリアンヌの姿を探した。

(マリアンヌ様は、もういらしているかしら)

 すると一番奥の人目につかないテーブルに、マリアンヌの美しい横顔を見つける。

「マリアンヌさ――」
 ――が、声をかけようとして、エリスは足を止め、同時に言葉を呑み込んだ。

 マリアンヌが、とても楽しそうに会話していたからだ。それも、エリスのよく知る人物と。

(あれって……)
「……シオン?」

 ――そう。その相手とは、紛れもないシオンだった。
 一月以上前に突然宮を飛び出していった、愛する弟に違いなかった。

(どうして、あの子(シオン)がここにいるの?)

 いったいこれはどういう状況だろうか。というより、この二人は知り合いだったのだろうか。――いつの間に?

(それに、シオンのあの顔……。マリアンヌ様相手にとても堂々として……まるで……)
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