ヴィスタリア帝国の花嫁Ⅱ 〜婚約破棄された小国の公爵令嬢は帝国の皇子に溺愛される〜

18.懐妊の兆しと二度目の再会


「――え? 悪阻(つわり)……?」


 オリビアに通された客室で、医師から下された診断に真っ先に声を上げたのは、エリスではなくシオンの方だった。


 ――今より少し前、オリビアの屋敷に運び込まれたエリスは、ほどなくして目を覚まし、医師の診察を受けていた。

 なお、オリビアは気を利かせて医師と入れ違いに出ていったため、今部屋にいるのはエリスとシオン、あとはオリビアが手配してくれた、眼鏡をかけた温和そうな男性医師の三人だけだ。


「悪阻ってことは……、つまり……姉さんは……」
「ええ。まだ確定はできませんが、症状と問診の結果からして妊娠初期でしょう。あとは軽い貧血が見られますが、他に異常はありません。あまり心配されずとも大丈夫ですよ」
「……っ」

 男性医師は、狼狽えるシオンを宥めるようにニコリと微笑む。

 するとシオンは途端に緊張の糸が切れたのか、椅子にストン――と腰を抜かし、両手を額に当てたまま、大きく項垂(うなだ)れた。

「あー……なんだよ、もう……」

(……病気じゃ、なかったのか)


 ――シオンは、エリスが『妊娠』の診断を受けるまで、生きた心地がしなかった。

 不安と憤りで、どうにかなってしまいそうだった。
 万が一にでもエリスを失ってしまったらと――そう考えるだけで、心臓が凍り付くほど恐怖したのだ。

 そんなシオンが、『妊娠』という予期せぬ二文字に強い衝撃を受けつつも、エリスが命に関わる病ではなかったことに安堵するのは、当然のことだった。
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