ヴィスタリア帝国の花嫁Ⅱ 〜婚約破棄された小国の公爵令嬢は帝国の皇子に溺愛される〜
20.二年前の真相
セドリックがその情報を掴んだのは、演習参加の為に帝都を出発する、数日前のことだった。
セドリックは、かつてルクレール家のタウンハウスでメイドとして働いていたという、若い女性の家を訪れた。二年前のお茶会の頃の、オリビアとリアムの様子を尋ねるためだ。
女性は最初こそセドリックに警戒心を示したものの、わずかばかりの心づけを渡すと途端に饒舌になり、色々と話してくれた。
するとそこで、二つの事実が判明した。
一つ目は、『二年前の春、オリビアが何らかの理由で怪我を負い、その怪我の治療を理由に、領地に引き下がってしまった』こと。
そしてもう一つは、『オリビアが近々結婚する』ということである。
「オリビア様が結婚?」
これを聞いたセドリックは、真っ先に自分の耳を疑った。
セドリックは、この女性を訪ねるより先に、社交界で二人の噂を密かに尋ねて回っていたが、どこにもそのような情報はなかったからだ。
セドリックは慌てて確認する。
「それは確かなのでしょうか?」
「ええ。私、今でもあのお屋敷で働く子たちと時々お茶をするんです。そのときに聞いた話なので、確かかと」
「ちなみに、お相手の名前などは」
「さあ、そこまでは。でも、子爵様だって言ってましたよ。それも、四十を過ぎた方だって」
「子爵? それも、四十を過ぎた?」
「驚きますよね。でも間違いありません。私も信じられなくて何度も聞いたんですから。だってありえないじゃないですか。侯爵家のオリビア様が子爵家に嫁ぐだなんて。――とにかく、そのせいで侯爵閣下とリアム様の仲は今、最悪らしいんです。リアム様は昔からオリビア様をとても大切にされていたので、侯爵閣下の決断に強く反発されているらしくて。食事も別で、まともに会話すらしないそうなんです」
「…………」
(これはいったい、どういうことだ?)
オリビアとリアムの父、ルクレール侯爵は野心家で有名だ。
それなのに、下位貴族である子爵家に娘を嫁がせるなど考えられない。
――が、一度はそう考えたものの、セドリックはすぐに思い至る。
(もしや、オリビア様が負った怪我というのが原因か?)と。
セドリックは、かつてルクレール家のタウンハウスでメイドとして働いていたという、若い女性の家を訪れた。二年前のお茶会の頃の、オリビアとリアムの様子を尋ねるためだ。
女性は最初こそセドリックに警戒心を示したものの、わずかばかりの心づけを渡すと途端に饒舌になり、色々と話してくれた。
するとそこで、二つの事実が判明した。
一つ目は、『二年前の春、オリビアが何らかの理由で怪我を負い、その怪我の治療を理由に、領地に引き下がってしまった』こと。
そしてもう一つは、『オリビアが近々結婚する』ということである。
「オリビア様が結婚?」
これを聞いたセドリックは、真っ先に自分の耳を疑った。
セドリックは、この女性を訪ねるより先に、社交界で二人の噂を密かに尋ねて回っていたが、どこにもそのような情報はなかったからだ。
セドリックは慌てて確認する。
「それは確かなのでしょうか?」
「ええ。私、今でもあのお屋敷で働く子たちと時々お茶をするんです。そのときに聞いた話なので、確かかと」
「ちなみに、お相手の名前などは」
「さあ、そこまでは。でも、子爵様だって言ってましたよ。それも、四十を過ぎた方だって」
「子爵? それも、四十を過ぎた?」
「驚きますよね。でも間違いありません。私も信じられなくて何度も聞いたんですから。だってありえないじゃないですか。侯爵家のオリビア様が子爵家に嫁ぐだなんて。――とにかく、そのせいで侯爵閣下とリアム様の仲は今、最悪らしいんです。リアム様は昔からオリビア様をとても大切にされていたので、侯爵閣下の決断に強く反発されているらしくて。食事も別で、まともに会話すらしないそうなんです」
「…………」
(これはいったい、どういうことだ?)
オリビアとリアムの父、ルクレール侯爵は野心家で有名だ。
それなのに、下位貴族である子爵家に娘を嫁がせるなど考えられない。
――が、一度はそう考えたものの、セドリックはすぐに思い至る。
(もしや、オリビア様が負った怪我というのが原因か?)と。