鬼縛る花嫁~虐げられ令嬢は罰した冷徹軍人に甘く激しく溺愛されるが、 帝都の闇は色濃く燃える~

夕飯を一緒に・1

 帰宅した要を、出迎えた鎖子。
 二人一緒に、玄関へ向かう。
 
「ただいま帰った」

 玄関を開けると岡崎に梅、そして屋敷中の皆が待っていた。

「おかえりなさいませ。要様」

 皆が笑顔で、要と鎖子を見ている。

「我先にと鎖子様が要様をお出迎えに出たので、私達はここで控えておりました」

「余計な気遣いしなくていい。何故そんなに嬉しそうなんだ」

「いつもどおりの笑顔でございます」

 そう言う要と隣にいる鎖子を見て、また皆が嬉しそうに微笑んだ。
 要はマントと軍帽、そして刀を岡崎に渡した。
 
「岡崎、変わりはなかったか」

「はい。鎖子様を書斎へお連れ致しました」

「そうか」

 要は自分の部屋へ歩き出すが、鎖子はどうすればいいのかわからない。

「鎖子様。要様のお世話をお任せしてもよろしいでしょうか?」

「は、はい! もちろんです」

「おい岡崎」

 要が少し顔をしかめたが、岡崎もメイド達も、ニコニコと無言で微笑んでいる。

「……それでは、一緒に俺の部屋へ来るか」

「はい」

 鎖子もホッとして、要の後ろを着いていく。
 パタパタと早足で追いかける鎖子に気付いて、要は歩く早さを落としてくれた。
 要の部屋へ入る。

「支度なんかは自分一人でできるから、好きに座って待っていてくれ」

「で、でも……」

「子どもの頃から留学先で、一人でなんでもやってきたんだ。すぐ戻る」

「はい……」

「本の続きでも、読んでいたらいい」

 夢中で三巻まで読んでしまった事が、バレてしまった?
 でも、要は優しい微笑みを浮かべたまま衣装部屋へ消えていった。
 
 要はすぐに着替えて戻ってきた。
 洋装の黒いシャツにパンツ姿は、誰よりも素敵に見えた。
 ソファにちょこんと座っていた鎖子は、すぐに立ち上がって要に歩み寄って頭を下げる。

「そんなに固くなる必要はない。座っていていいんだ」

「は、はい。あの、今日は本ばかり読んでしまって……申し訳ありません」

「謝ることなどない。お前が楽しく幸せなら、俺はそれでいい。面白かったか?」

「は、はい……私が楽しくて幸せなら……?」

「そうだ」

「あの、とても面白くて楽しい時間でした。あの……あの、ありがとうございます」

「そうか、よかった」
 
 優しい言葉に心臓が高鳴る。
 本を読む時間は、楽しく幸せだ。
 でも、一番の幸せは……こうして要の傍にいることだと鎖子は思う。

「晩飯の時間だな。俺は部屋でいつも食べるから、鎖子も自分の部屋で食べるといい」
 
「え……」

「普段の食事で食べたいものがあれば、岡崎に言うといい。あと本も全巻、鎖子の部屋に運ばせよう」

 もうこの部屋には来るなという事だろうか。
 やはり拒絶されている?
 これからは関わらないように、二人はこの屋敷で過ごしていくのだろうか?
 そう思うと、鎖子の心が締め付けられた。

「あの……」

「どうした? 言いたいことがあるなら言うといい」

「あの……わ、私は……夕飯を……要様と……一緒に食べたいと思うのです……っ」

 緊張しすぎて、まるで小学部の発表のようになってしまった。
 恥ずかしさで顔に血が集まる。
 
「ん?」

 要様の耳には届かなかった? と鎖子は恥ずかしさで倒れそうだ。
 
「要様と、一緒にお夕飯を……いただき……たく! あ、あの……」

 でも倒れる前に、もう一度叫んだ。
 一瞬、要が驚いた顔をした。

「……俺と?」

「す、すみません。わがままを……」

 でも、夫婦としてのこれから……。
 ずっと別で食事をとるのは不自然に感じた。
 きっと、今しか言う機会はない。

 心臓が激しく高鳴る。

 要は少し考えている様子で顔をあげた。

「……本当にそうしたいのか?」

「はい、私が……そうしたいのです……お願いいたします」

「……そうか。……ではそうしよう」

「はい……! 私、岡崎さんにお伝えしてきます!」
 
 嬉しくて鎖子が微笑む、要は飛び出ていく鎖子に何も言わなかった。
 鎖子の提案を聞いた岡崎達は喜んで、食堂での夕食となった。

 「とても美味しいです」

「あぁ、そうだな」

 今日は洋食ということで、鎖子は初めてコロッケを食べた。
 
 コロッケに、ご飯にお味噌汁。
 ナイフとフォークを使うのは慣れていないので、ホッとする。

「このソースもすごく美味しいです」

「あぁ、俺もそう思う」
 
 ホクホクのコロッケにかかっているソースも美味しい。
 小鉢もきんぴらごぼうなどの和風のものや、洋風のキャベツサラダなどが並んでいて、とても豪華だ。
 九鬼兜家の料理長の腕は、かなりのレベルの高さだろうと思った。

「うちの料理長は、本当に腕がいいんだ」

 今日ずっと考えていた事を、鎖子は要に話す機会だと思う。
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