鬼縛る花嫁~虐げられ令嬢は罰した冷徹軍人に甘く激しく溺愛されるが、 帝都の闇は色濃く燃える~

大学校入学準備

 ソファで寄り添いながら大学校の書類を見て、要はやはり憤る。

「妖魔との戦闘実戦訓練がすぐにあるな……やはり心配だ」
 
「私なら大丈夫です。高等部の時にも実戦を経験した事があります」
 
「高等部で? 見学はあるだろうが、実戦訓練などないはずだ。……愛蘭達か」

「はい。危険区域に閉じ込められてしまって」
 
 対妖魔軍が妖魔駆除をしている様子を、高等部で見学に行った時だった。
 危険区域に一時間閉じ込められて、鎖子は三体の妖魔を斬った。
 この愛蘭の悪戯は揉み消され、記録としては残っていない。

「……殺すか、あいつら」

 ゆらりと、要の殺気が揺れた。
 
「そ、そんな要様」

「冗談……でもない。お前を傷つける者は許さない」

「私は要様の傍にいられるのでしたら、もう何でも平気です」

 鎖子の細い指先を、要がそっと握る。

「お前は、強いな」

「……か、要様の妻ですもの……」

「ふ……可愛いことを言う」

 握りあった手に、口づけされた。
 要の王子様のような仕草に、鎖子の胸が高鳴る。

「だが、何かされたら必ず言うんだぞ」

「はい」

「帰国するまで助けられず……長く辛い思いをさせて、すまなかった」

「要様が謝ることではありません。私も逃げ出さなかったから……でも、お手紙は受け取りたかったです」

 要の手紙がどこへ行ったのか、確認する術はない。

「今思えば……情けない手紙だったかもしれん」

 要は複雑そうな顔をする。
 
「それでも読みたかったです。またお手紙を書いてくださいますか?」

「あまり得意ではないのだが、鎖子が望むなら書いてもいい」

「嬉しいです」

「返事を書いてくれるのか?」

「はい、もちろんです! 要様への想いを沢山、綴ります……」

「お前は、本当に可愛い」
 
 頬を猫のように指先で、撫でられる。
 いつでも最後には甘い時間になってしまう二人。
 
 大学校入学式は、なんともう来週に迫っていた。
 一ヶ月の寮生活。
 休日には外出して戻ってくることができるが、それでも今は寂しいと思ってしまう。
 
「急いで週末に、装備を一式揃えよう。刀も、俺が最高のものを選んでやる」

「そんな、支給品で大丈夫です」

「何を言う」

「でも、私はお金が……」

「俺が金を出すに決まっているだろう? 金の心配なんかするな。隊服も一番強く良い生地で作ろう」

「いいんでしょうか……」

「お前は俺の花嫁なのだろう?」

「は、はい」

「なら当然のことだ」
 
 肩を抱き寄せられ、口づけされれば、夢の中にいるような気さえしてしまう。
 ちゅ……っちゅっと軽い口づけを何度かかわした。

 恥ずかしさで、思い切り目をつぶってしまう鎖子。
 最後に瞼へ、優しく口づけをされる。

「今日はさすがに、寝かせてやらないとだな」

「あ、あのでも……あの……私」

「あぁ。一人で寝ろとはもう言わない。俺のベッドで二人で、ゆっくり眠ろう」

 言わなくても、わかってくれる。
 優しい夫に、鎖子は抱きついた。
 
 次の日。
 要は軍部へ出かけたが、鬼九分家御用達の仕立て屋がやってきて、鎖子は採寸された。
 女子の制服はパンツスタイルとスカートがあり、マントやブーツなども必要だ。
 要からの注文で、全て最高の素材を使うとの事で仕立て屋も若干興奮気味だった。

「超特急でとのことで、週末までにはなんとか」

「ご無理を言ってしまい申し訳ありません」

「とんでもありません! こんな豪華な仕立てができるなんて腕が鳴ります!! それでは不躾ながら本日はこれで失礼致します! 戻って早急に作業にかかりたい!」

「はい、ありがとうございます……!」

 鎖子が見送った横で、梅が嬉しそうに微笑んでいる。

「午後からは、お着物とお洋服、ドレスの採寸がありますからそれまでゆっくりお休みくださいませね」

「えぇっ? 頂いた服だけで十分なのに、そんなお話は初耳です」

「要様からのプレゼントですよ。結婚したての可愛い奥様になんでもしてあげたいんですよ」

「そんな……。私が要様に何かできることはないでしょうか」

「沢山、栄養のあるものを食べてしっかり体力をつけて! 要様の愛情を精一杯お受け取りになればよろしいのですよー! さぁお茶を淹れましょうね」
 
「は、はい」

 採寸をしてもらい、遠慮しながらも数点新しい服も注文する。
 愛される喜びを知って、夫に綺麗だと思われるようになりたい……と鎖子は思う。

 今日は夕飯を一緒に食べることができるだろうか……。
 そう思って料理長にまた、料理を習い、お菓子を焼いた。
 
 要の事を無事を願いながら、鎖子は鬼人に伝わる御守りを縫い始める。

 使用人達の手があいている時は、お茶をしたりも楽しんで穏やかな一日。

 あとは要の帰宅を待つだけ……早く会いたい……そんな時。

「鎖子様……柳善縛和博(りゅうぜんばく・かずひろ)様からお電話です」

「えっ……」

 突然の叔父からの電話だった。

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