鬼縛る花嫁~虐げられ令嬢は罰した冷徹軍人に甘く激しく溺愛されるが、 帝都の闇は色濃く燃える~
難義な演習・1
鎖子の能力検定も再度実施され、高い能力を見て女性指揮官は驚きを隠せずにいた。
その後の数日は、座学と訓練が繰り返し続き、低級妖魔駆除の実戦練習が行われる。
悍ましい妖魔との戦いに苦戦する生徒もいたが、鎖子はなんの問題もなく妖魔を撃破した。
「鎖子ちゃん、毎日しんどーい!」
訓練後の夜。
希美がベッドに、倒れ込む。
「本当ですね。毎日ヘトヘトです。でも希美ちゃんとの、この時間があるので頑張れます」
鎖子もベッドに倒れ込んで、微笑む。
厳しい訓練も、希美との時間がとても楽しく癒やしなのだ。
「うん私も~。鎖子ちゃんとの時間が楽しいのが救いだよぉ。そういえば、あの義妹はあれから来てないね」
「はい。よかったです」
愛蘭が何を考えているのかはわからないが、関わり合いにならないのが一番だ。
「だねーー! ねぇねぇ九鬼兜の王子様の結婚前には、好きな人とかいた~?」
「えっ。えっと……子どもの頃からずっと……要様が初恋で……」
鎖子の頬が熱くなる。
「え!? 初恋の相手と結婚したの!? すご!」
毎晩、希美に色々と要との関係を聞かれて、色々な事を思い出す。
離れていた時期が長かったが、いつでも思い出せる要の少年時代。
「いーなぁ! 純愛結婚! 素敵~」
「うふふ、ありがとうございます」
紆余曲折あって罪と罰の絡んだ結婚だったが、何も知らない希美から見れば『素敵な結婚』らしく、鎖子は嬉しくなった。
入学式後の六日目に、丸一日の休日があった。
鎖子は一度屋敷に戻ったが、要は帰宅していなかったのですぐ寮へ戻ることにする。
「鎖子ちゃん~!! 帰ってきてくれたの!? 嬉しいーー!」
希美は実家が遠方で、休日でも家に戻ることはできないのを知っていたからだ。
「お菓子の持ち込み、許可してもらったから食べましょう」
帰り際に買った、人気のカステラを買ってきた。
持ち物検査を受ければ、許可される。
「ありがとうー! 嬉しい! 帝都最高!! 今度さ~帝都の繁華街へ遊びに行こうよー?」
「まぁ素敵ですね」
要のいない寂しさも、希美が癒やしてくれる。
友人の素晴らしさを、鎖子は実感していた。
それでも、早く要に会って色んな事を報告したい想いが募る。
そして十日目は、演習訓練が実施されるとになった。
今後は他国との戦争に対妖魔軍が軍事利用されるという話を要から聞いたが、元々は帝国内の人を襲う妖魔を狩る任務がメインだ。
今も帝国内では、妖魔の被害が続出している。
今回は、山一帯が訓練場になっている場所での泊まり込みの演習訓練。
まだ実戦には早い者は、麓での野営訓練。
中級者と上級者は隊を作り、山に入って低級妖魔を狩る。
高等部出の者はもちろん上級者として、隊長などを命じられた。
隊長、副隊長が一人ずつ、他八名の十人隊だ。
「鎖子ちゃ~ん。一緒の隊でよかった~!」
「私もです。野営は初めてだし、希美ちゃんと一緒で安心しています」
「でも問題はあの愛蘭が副隊長で、金剛将暉が隊長ってことだよ……どうなることやら」
希美がうんざりした顔をする。
「そうですね……でも、今回は訓練ですし、大丈夫だと信じたいですね」
「そうだねー!! まだ始まって十日目だし、軍部側も、新入生にそんな辛い訓練するわけないよね~」
しかし希美の予想は外れ、入学後の洗礼かのように厳しい演習訓練になった。
険しい山道を登り、コウモリのような超低級妖魔を排除し、やっと今日の仮眠場所に着いた。
結界を張って、休憩場を作っり、焚き火を起こす。
「あああ疲れた! なんで私がこんな事しなきゃならないわけ? 私は五大家の柳善縛家なんですけど?」
柳善縛家の術を学ぼうともせず、財産を食いつぶすしかしてこなかった愛蘭が、不満そうに言う。
「しゃーないよ、愛蘭。俺達は上に立つべき尊い存在だけど、無能で低俗の奴らには同じ苦労をしているとこを見せた方が言う事を聞くんだってさ。父さんがそう言って……いや、俺がそう思った」
「まぁ~。低俗な奴らってそんな卑しい考えがあるのねっ思いもよらなかったわ! さすが将暉!」
「はっはっは! 当然だろ!」
将暉と愛蘭が二人で笑う。
とは言っても、ただの会話なだけだった。
「おいお前ら! 早く焚き火を起こせよ!」
実際は、将暉と愛蘭……そして将暉の子分二人は、何もしないでどっかりと座り込んでいるだけだ。
「……あいつら……なに?」
希美が、怒りでひくひくと顔を強張らせた。
「希美ちゃん、早く焚き火を起こそうね」
「鎖子ちゃん……うん!」
一般市民の入学者や、地方華鬼族に命令するものだから希美を含めた六人はかなり不満を溜めている。
そのため積極的に動こうとする者がおらず、薪も集まらない。
「皆様、薪を集めてきました。松ぼっくりもほら」
「九鬼兜隊員!」
鎖子はそんな皆の励みになるように、一生懸命薪を拾う。
やっと薪が集まって、火を点けると皆の顔がほころんだ。
「おい、鎖子」
しかし将暉が、焚き火で湯を沸かし始めた鎖子に乱暴に声をかけた。