鬼縛る花嫁~虐げられ令嬢は罰した冷徹軍人に甘く激しく溺愛されるが、 帝都の闇は色濃く燃える~
難義な演習・2
真夜中の演習。
皆で協力し湯を沸かし始めた時に、何もしない将暉が鎖子を呼びつけた。
しかし鎖子は返事をしない。
「おい、鎖子。返事をしろ」
鎖子の部屋を訪れ乱暴しようとした事を、すっかり忘れたかのような横暴な物言いだ。
「金剛隊長。隊員を呼ぶ時には下の名前ではなく、苗字で呼ぶのが一般的かと思います」
静かに、鎖子が口を開いた。
「なんだと! 腐ったクサ子が生意気な……!」
低級な中傷。
その様子を見ていた隊員達の冷ややかな目を見て、将暉は声を落とした。
「九鬼兜隊員……。柳善縛副隊長を癒やすために治癒術をかけてやれ」
「……どこかお怪我をされたのですか……?」
「愛蘭は疲れている。癒やしてやれ」
確かに、治癒術は疲労しきった者を癒やす効果もある。
しかし、術者には当然に負担になるものだ。
「……治癒術は、怪我を治すためのものですので」
「登山で足が棒みたーい! さっさとしてよクサ子!」
「無断使用は禁止されています。これから深夜の妖魔討伐を前に、無駄に力を使うわけにはいきませんのでお断りします。隊員達の前だという自覚を、お持ちくださいませ」
きっぱりと断った鎖子。
希美はヨッシャ! と笑う。
将暉は唖然とし、愛蘭は顔を歪ませる。
「話は聞いていたが、まさかここまで反抗的だとは……!」
「クサ子……てめぇーー!!」
「た、隊長。副隊長。ここは抑えて……」
将暉の隣の子分が、珍しく口を挟んだ。
ハッとした将暉が周りを見ると、希美達の冷たい視線と引いた空気が突き刺さる。
「ま、まだ薪が足りないぞ! お前ら早く集めてこい!」
「行きましょう、希美ちゃん」
「う、うん!」
湯は少量ずつしか沸かせないが、将暉と愛蘭が先に使い果たしてしまい、飯も先に食べてしまった。
そして、一番暖かく平らな場所で二人で仮眠を始める。
その横で、子分も眠り始める。
「あまりにも酷い、こんな奴らが未来の幹部候補?」
「華鬼族って……常識ないんじゃないか……?」
「なんなんだよ、こいつら……」
コソコソと一般市民出の隊員男子四人で話をしているのが聞こえた。
鎖子はもちろん、地方とはいえ華鬼族の希美も複雑そうな顔をしている。
鎖子は少し離れた場所に、もう一つ焚き火を作り始めた。
家事も庭掃除もいつもしていた鎖子は、火を起こすのは慣れたものなのだ。
「鎖子ちゃん、上手~!」
「希美ちゃん、皆さんもここで温まりましょう。先にお湯を使ってください。温かいお茶を飲んで簡易ご飯を食べて夜中に備えましょう……」
湯を使う順番を譲られて、隊員が驚いた顔で見る。
温かい炎に照らされた鎖子の微笑みは、皆の心に優しく染み渡る。
「九鬼兜隊員……! はいっ!」
「華鬼族だって、私や鎖子ちゃ……九鬼兜隊員みたいな普通の鬼人もいるんですからね~」
希美が明るく笑うと、男子四人も微笑んだ。
「そうですね。九鬼兜隊員はあいつらの嫌がらせも軽くかわして素敵な人だ」
「九鬼兜隊員のおかげで、頑張れます。みんなで頑張ろうな」
皆でお湯を分かち合い見張りの順番も静かに決めて、六人の信頼関係が築かれていった。
「要様……千祈様、おやすみなさいませ……」
要の愛刀を胸に抱いて、鎖子も仮眠をとる。
そして丑三つ時。
鎖子は希美や、周りの隊員を優しく起こす。
将暉と愛蘭も不機嫌に起き始めた。
いよいよ妖魔を探しに行く時だ――。
皆で協力し湯を沸かし始めた時に、何もしない将暉が鎖子を呼びつけた。
しかし鎖子は返事をしない。
「おい、鎖子。返事をしろ」
鎖子の部屋を訪れ乱暴しようとした事を、すっかり忘れたかのような横暴な物言いだ。
「金剛隊長。隊員を呼ぶ時には下の名前ではなく、苗字で呼ぶのが一般的かと思います」
静かに、鎖子が口を開いた。
「なんだと! 腐ったクサ子が生意気な……!」
低級な中傷。
その様子を見ていた隊員達の冷ややかな目を見て、将暉は声を落とした。
「九鬼兜隊員……。柳善縛副隊長を癒やすために治癒術をかけてやれ」
「……どこかお怪我をされたのですか……?」
「愛蘭は疲れている。癒やしてやれ」
確かに、治癒術は疲労しきった者を癒やす効果もある。
しかし、術者には当然に負担になるものだ。
「……治癒術は、怪我を治すためのものですので」
「登山で足が棒みたーい! さっさとしてよクサ子!」
「無断使用は禁止されています。これから深夜の妖魔討伐を前に、無駄に力を使うわけにはいきませんのでお断りします。隊員達の前だという自覚を、お持ちくださいませ」
きっぱりと断った鎖子。
希美はヨッシャ! と笑う。
将暉は唖然とし、愛蘭は顔を歪ませる。
「話は聞いていたが、まさかここまで反抗的だとは……!」
「クサ子……てめぇーー!!」
「た、隊長。副隊長。ここは抑えて……」
将暉の隣の子分が、珍しく口を挟んだ。
ハッとした将暉が周りを見ると、希美達の冷たい視線と引いた空気が突き刺さる。
「ま、まだ薪が足りないぞ! お前ら早く集めてこい!」
「行きましょう、希美ちゃん」
「う、うん!」
湯は少量ずつしか沸かせないが、将暉と愛蘭が先に使い果たしてしまい、飯も先に食べてしまった。
そして、一番暖かく平らな場所で二人で仮眠を始める。
その横で、子分も眠り始める。
「あまりにも酷い、こんな奴らが未来の幹部候補?」
「華鬼族って……常識ないんじゃないか……?」
「なんなんだよ、こいつら……」
コソコソと一般市民出の隊員男子四人で話をしているのが聞こえた。
鎖子はもちろん、地方とはいえ華鬼族の希美も複雑そうな顔をしている。
鎖子は少し離れた場所に、もう一つ焚き火を作り始めた。
家事も庭掃除もいつもしていた鎖子は、火を起こすのは慣れたものなのだ。
「鎖子ちゃん、上手~!」
「希美ちゃん、皆さんもここで温まりましょう。先にお湯を使ってください。温かいお茶を飲んで簡易ご飯を食べて夜中に備えましょう……」
湯を使う順番を譲られて、隊員が驚いた顔で見る。
温かい炎に照らされた鎖子の微笑みは、皆の心に優しく染み渡る。
「九鬼兜隊員……! はいっ!」
「華鬼族だって、私や鎖子ちゃ……九鬼兜隊員みたいな普通の鬼人もいるんですからね~」
希美が明るく笑うと、男子四人も微笑んだ。
「そうですね。九鬼兜隊員はあいつらの嫌がらせも軽くかわして素敵な人だ」
「九鬼兜隊員のおかげで、頑張れます。みんなで頑張ろうな」
皆でお湯を分かち合い見張りの順番も静かに決めて、六人の信頼関係が築かれていった。
「要様……千祈様、おやすみなさいませ……」
要の愛刀を胸に抱いて、鎖子も仮眠をとる。
そして丑三つ時。
鎖子は希美や、周りの隊員を優しく起こす。
将暉と愛蘭も不機嫌に起き始めた。
いよいよ妖魔を探しに行く時だ――。