鬼縛る花嫁~虐げられ令嬢は罰した冷徹軍人に甘く激しく溺愛されるが、 帝都の闇は色濃く燃える~

丑三つ時の罠

 仮眠のあと、丑三つ時に起きた金剛部隊。

「はぁ~もう、泥ついちゃった最悪」

 早速、愛蘭の文句が闇夜に響く。

「よし! では、この金剛隊長率いる、金剛物隊が妖魔討伐に向かうぞ! 相手は下級妖魔だが、俺達は洞窟内探索という上級難易度の場所を指定されている! お前たちは俺の援護を精一杯務めるんだぞ!! わかったか!!」

「将暉かっこい~い! うふふ、わかったわ~」

「はい! 隊長!」

 元気よく返事をしたのは愛蘭と子分だけ。
 それ以外の皆は、冷めた目で静かに返事をした。

「頑張ろうね、希美ちゃん」

「うん、そうだねー! これが終われば、鎖子ちゃんは家に帰れるし気合いも入るね!」

「そうですね。いい結果を出したいところです」

「旦那様は、迎えに来るのー?」

「それはわからないです。まだ帰宅もしていないかもしれません……」

 そっと呪術紋に触れる。
 こんな時でも、恋しくて会いたくてたまらない。

「迎えに来てくれたらいいね!」

「はい!」

 希美の明るい笑顔に、鎖子も微笑んでしまう。
 しかし冷たい風が二人の間を吹き抜けて、夜の山を不気味な妖魔の気が覆っていく――。

 要の愛刀『千祈』に触れ、鎖子達は洞窟を目指す。

 そして数十分後……眼の前に洞窟の穴が目視できた。

 洞窟の入り口はかなりの大きさだ。
 異様な妖気が流れ出て、風が頬を撫でる。

「ねぇ……これ私達みたいな十日目の訓練生が挑む場所なの……?? おかしくない?」

 希美が若干怯えながら言う。
 その言葉には、周りの隊員も『おかしい』と頷いている。

 鎖子も、肌が粟立つ感触を覚えた。
 要はいつも、こんな恐怖に立ち向かっているのか。

「隊長……引き返してはどうでしょうか」

 青ざめた顔の一人が、将暉に提言する。
 
「馬鹿なことを抜かすな!! おい、さ……九鬼兜! それと、そこのお前! 先に行け! しんがりは俺に任せろ」

 今回の演習での成績は、今後の評価に関わる。
 演習では妖魔を退治する際に、支給された封印石に封印し、その証を残す必要があるのだ。

「くぅ~~! むかつく! なんなのあいつ! あれが隊長なの!? しんがりってさぁ怖いだけじゃん!」

 お前呼ばわりされた希美が、小声で文句を言う。
 皆がランタンに火を点ける。

「希美ちゃん……守護結界を張ってもらえますか? 私は妖魔の位置を特定するための探索式神を飛ばします」

 鎖子が呪符を持って念じると、ウグイスのような愛らしい鳥型の式神が具現化した。

「うわぁ! すごい! ねぇねぇ、後ろのみんなも一緒に守護結界を張ろう!」

「わかった!」

「あぁ! みんなで結界を張って守りながら行こう!」
 
 少しの時間でも、頼りない隊長と副隊長を前にして団結した隊員同士でお互いを守り合う決意が生まれた。 
 身を守るための守護結界を、皆で張る。
 
「お、おい……お前ら勝手に!」

「ねぇー将暉~私のことちゃんと守ってよね??」

「あぁもちろんだ! さぁ愛蘭も守護結界を張るんだ……俺はやっぱり最前列に行く。愛蘭はしんがりにいろ」

「えぇ? 最前列なんて、クサ子に任せればいいのにぃ」

「そ、そうはいかない! とりあえず俺は前に行く、おいどけろ!」

 突然に将暉が周りを押しのけて、鎖子の前に出てきた。

「隊長? どうされました」

「お前に馬鹿にされてばかりではいられん! おい、九鬼兜! お前は灯りを照らせ!」

 勝手に激昂して、将暉は刀を抜いて歩きだす。

「鎖子ちゃん~あいつなんなん……?」

「とりあえずは従いましょう。大丈夫です。まだ妖魔は近くには、いませんから」

 そう、妖魔は察知できない。
 でも、この強い妖気は確かに感じる。
 一体どこから流れてきているのだろう……。

「もらった地図には、ほんの50メートルほど進めば妖魔の巣があると……雑魚だ! 雑魚! はは! 鎖子! お前のようだな!」

 誰も笑わない冗談を、将暉は言って一人笑う。
 しかし、不気味な洞窟を一歩ずつ歩く重圧に顔は歪んで、冷や汗が滲んでいるのがわかる。

「金剛隊長! 皆さん止まって!」

 鎖子の言葉に皆が止まる。

「穴だ……」

 洞窟内で、陥没したような大きな穴が空いていた。
 
 
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