鬼縛る花嫁~虐げられ令嬢は罰した冷徹軍人に甘く激しく溺愛されるが、 帝都の闇は色濃く燃える~

十三歳・小等部卒業パーティーでの再会・1

 
 鎖子十三歳、要十五歳の頃。

 小学部の卒業祝いパーティーに要が来賓として出席する、という噂を聞いた。
 留学をしている要だが、彼の同盟国での活躍話は本国にも入ってくる。
 なので、要に憧れる生徒は沢山いるのだ。

 そして鎖子にも要から久しぶりに、一枚の葉書が届いた。
 
 『卒業おめでとう。パーティーに出席する予定です』
 
「私の事まだ覚えててくれてたなんて……嬉しい。やっぱりパーティーに要君も来るんだわ……何年ぶりだろう。会えるかな」
 
 皆が着飾って参加する卒業パーティー。
 貸し切ったホールで開催される、海外の風習を真似た新しい試みだった。
 
 当然に、女子はドレスで着飾る。
 愛蘭も、パーティーのためにわざわざ仕立てたようで見せつけてくる。

「クサ子、私のドレスを見なさいよ。流行最先端! 最高級のドレスよ! 私が一番可愛いくて綺麗だわ」

 仕立ててもらったのに、見た目の華美を重視してゴテゴテに見える。

「そうね」

「見とれてないで、紅茶持ってきて!」
 
 鎖子が成長するに従って、扱いは更に酷くなり、今では小間使いのように家の仕事をさせられるようになった。
 当然、義両親は愛蘭に金を注ぎ込み、鎖子にはなんの援助もしてくれない。
 どうにか亡き母のドレスを縫いお直し、丈を詰めた。
 欠席するのは世間体に悪いという事で、会場までの馬車に乗ることだけは許してもらえた。

 会場ホールは、卒業生と保護者達が溢れかえっている。
 上質なドレスを着た少女達と、スーツに身を包んだ少年達。
 学長の祝いの挨拶が済んで、皆が楽しそうに、はしゃいでいるが鎖子は隠れるようにして端を歩く。
 
「なんだよ、鎖子。ブカブカのドレスで、脱がしやすい格好をして男を誘っているのか?」

 目立たないように歩いているのに、鎖子を見つけた一人の男子が近づいてきた。

「ち、ちが……ちがいます」

 確かに大きなドレスだが、コルセットを締めているし、手首までドレスで隠れている。
 それなのに……。

「お前はいつも……みすぼらしいな……」

 舐め回すような視線に、鎖子はゾワッとする。
 
 五大家の一つ、金剛(こんごう)家の長男・将暉(まさき)だ。
 金剛家の名の元に、好き放題の荒くれ者。
 背も高く骨太で、威圧感がすごい。
 この男は、何かと鎖子に近づいてきてはいやらしい嫌味を言ってくる。

「将暉~なにやってるの? クサ子に、近づいたら腐るわよ」

「あ、可愛い愛蘭が来たね。今日も綺麗だよ」

「うふふ。行きましょ」

 将暉は、愛蘭の腰を抱いて去って行った。
 将暉と愛蘭は恋人同士らしい。
 鎖子にとってはどうでもいい事だ。

 何人かの級友に、声をかけられ一言二言話した。
 あまり仲良くすると、愛蘭からの嫌がらせを受けてしまうので級友達とは距離がある。

九鬼兜(くきつ)様は、来賓の挨拶の時にいらっしゃらなかったわね。今日は来られなかったのかしら」

 そんな話が耳に入る。

「……要君……来ない……?」
 
 それでも、最後まで待っていようと決めた。
 綺麗にアイロンをかけた要のハンカチを握りしめ、会場端のカーテン付近で隠れるように過ごした。
 
「鎖子?」

「……え……?」

 誰かの自分を呼ぶ声。
 聞いたことのない声に、驚いてカーテンに隠れてしまう。
 
「俺だよ。九鬼兜要」

「か……要くん……?」

 帝国軍軍服を着た要だった。
 まだ15歳だというのに、随分背も伸びて成人のような立派さだ。
 声も低くなっていて、わからなかった。

 黒い軍服がよく似合う、端正な顔立ちの美丈夫。
 可愛らしい美少年だった彼が、今は精悍な美青年だ。
 
 あまりの変貌ぶりに、鎖子は驚いてしまう。

「隠れるなんて、ひどいな」

「ご、ごめんなさい」
 
「どうしてこんな壁の端にいるんだ? 探したよ」

「え……私を?」

「そう、葉書に行くって書いただろ? 俺も今来たばかりなんだが、また急な軍本部からの呼び出しがあって。もう行かなければならない」

「もうですか?」

 会えた嬉しさの直後に、もう別れ……。
 鎖子はショックで下を向く。

< 5 / 78 >

この作品をシェア

pagetop