鬼縛る花嫁~虐げられ令嬢は罰した冷徹軍人に甘く激しく溺愛されるが、 帝都の闇は色濃く燃える~
さらなる罰・2
要をまた罰する?
ただ金剛の感情だけで、そんな事が決まってしまうのか。
「そ、そんな罰はただの言いがかりではありませんか……? 要様は……」
「おや、鎖子姫。統率院への謀反を起こそうと言うのかな……?」
「えっ……」
「鎖子」
金剛に意見した鎖子の手を、要が握った。
それ以上何も言うなと、伝わってくる。
「妻はただ、私の身を案じたまでのこと。何もかも謀反と言えばいいものではない事を理解いただきたい」
「ガッハッハ!! 夫婦二人で庇い合う、まぁ美しいことだが……鎖子姫は、自分自身の執行官という立場をわきまえてもらわねばならぬ」
権利も何もない、ただ利用されるだけの立場。
憤りを感じながらも、鎖子は要の手を強く握り返す。
「鎖重ねの術。それは妻の身体に負担にならないのですか? 負担があるのであれば断固拒否する……!」
「執行官自身が罰を受けるような術など、あっていいわけがない。これで、要殿は強さをまた失い、反省をする……これこそが五大家で謀反を起こした者に対してふさわしい」
「……わ、私は言う通りに致します。ですが、力を失った夫に過酷な任務へ行かせるのはやめていただきたいのですが……!」
「いいや、九鬼兜隊長には今後も今までどおりの任務についていただく……それが罰だからだ。くどいぞ鎖子姫……!」
金剛の怒気にゾクリと恐怖した。
「金剛殿!」
要がそれを遮ってくれたが、恐ろしかった。
「わかればいいのだ」
金剛の言葉に、叔父はウンウンと頷く。
二人の当主は白けたように、もう何も言わない。
呆れ、同情するような視線も感じた。
「……ひどいわ……」
また愛する人が傷つく事になる。
悔しさで、鎖子は呟いて唇を噛んだ。
「鎖子、俺の事はいい。金剛殿、その妻への術の施しは、誰がどのように行うのです」
「既に、鎖子姫の叔母君……当主代理の妻と腕利の呪詛師達が、別室で待機している……腹部へ呪術紋を書き足すだけだ。全員で見守らせてもらおう。これは歴史的にも研究価値のあることだ」
叔母に……?
あの不勉強な叔母に、そんなことができるのだろうか……と不安になる。
それにまるで見世物のようだ。
「鎖子、大丈夫さ~お父さんも立ち会うし、有名な呪詛師の皆様だ」
叔父がニヤリと笑う。
お父さんと言われるたびに、寒気がする。
「妻を見世物のように扱うことは許さない……!」
「見世物ではない。言っただろう。見守るべき、柳善縛家の大事な儀式なのだ。後世にも伝えなければならない」
何を言っても、考えを改めるつもりはないだろう。
もう柳善縛家の跡継ぎはいないのに……後世に伝える? なんの意味があるのだろうか?
しかし今は従う道しかない……。
「要様……私は大丈夫です」
「妻の顔色が悪い。少しだけ休ませてください」
「がっはっは! 顔色が悪いのは、まさか夫の母殺しの罪を今知ったからではないだろうな!?」
「無論、話はしてある。金剛殿、あの女を母と呼ぶのを今後一切やめていただきたい。あの日に起きた事を此処でお話しましょうか……?」
要と金剛の睨み合いが数秒。
「いやいや! それには及ばん! まぁ、あの女が話題に出るのもこれで最後だろう。死んだ者などどうでもいい。しかし殺人は殺人だ。しっかり罰を受ければな。さぁ! では準備をするぞ!!」
「……それでは少し、妻に外の空気を吸わせてきます」
要は鎖子に手を差し出して、二人で和室を出て庭に出た。
要の顔色の方が悪く思えた。
「鎖子、大丈夫か。まさか金剛に言い返すなどして、何かあったらどうする」
二人で支え合うように、寄り添う。
「出過ぎた真似ばかりして、申し訳ありません。でも……でも」
「怒っているわけではない。あいつは底が知れない外道だ。お前に何かあっては困る」
「私は九鬼兜要の妻です。妻にも夫を守りたい気持ちがあるのです」
「鎖子……ありがとう。だが、俺も同じ気持ちだ。お前は絶対に俺が守る」
「はい……もう、口を挟むことはいたしません。要様を信じています」
「あぁ。ありがとう」
お互いの瞳を見つめ合って、あの不気味な空気から少し解放されたように思えた。
「俺の罪に付き合わせて、すまない」
「いいえ……要様の罪と罰は私達の愛の証しです。私を手に入れるために……背負ってくださったんですよね」
「……そうだ。何より、お前が欲しかった」
要の狂った愛が、鎖子にはたまらなく嬉しく愛しく思う。
「あの女を殺した罪など、感じもしないし、罰を受ける必要もない……だけどお前を無理矢理に俺のものにした罪と罰は受けよう」
「はい……では要様のことが愛しくてたまらない私も同罪です……ずっと私のお傍においてくださいね」
「もちろんだ。地獄に落ちても、お前は俺だけのものだ」
「……要様……嬉しい……」
そっと寄り添い、口づけをする。
二人にしか理解できない愛でも、それでよかった。
また無粋な金剛の部下が呼びに来て、準備ができたので早く来るようにと言われた。
要に肩を抱かれて、部屋へ向かう。
狂った世界に、狂った夫婦二人。
鎖子はこの手のぬくもりだけを信じようと決めたのだった。
ただ金剛の感情だけで、そんな事が決まってしまうのか。
「そ、そんな罰はただの言いがかりではありませんか……? 要様は……」
「おや、鎖子姫。統率院への謀反を起こそうと言うのかな……?」
「えっ……」
「鎖子」
金剛に意見した鎖子の手を、要が握った。
それ以上何も言うなと、伝わってくる。
「妻はただ、私の身を案じたまでのこと。何もかも謀反と言えばいいものではない事を理解いただきたい」
「ガッハッハ!! 夫婦二人で庇い合う、まぁ美しいことだが……鎖子姫は、自分自身の執行官という立場をわきまえてもらわねばならぬ」
権利も何もない、ただ利用されるだけの立場。
憤りを感じながらも、鎖子は要の手を強く握り返す。
「鎖重ねの術。それは妻の身体に負担にならないのですか? 負担があるのであれば断固拒否する……!」
「執行官自身が罰を受けるような術など、あっていいわけがない。これで、要殿は強さをまた失い、反省をする……これこそが五大家で謀反を起こした者に対してふさわしい」
「……わ、私は言う通りに致します。ですが、力を失った夫に過酷な任務へ行かせるのはやめていただきたいのですが……!」
「いいや、九鬼兜隊長には今後も今までどおりの任務についていただく……それが罰だからだ。くどいぞ鎖子姫……!」
金剛の怒気にゾクリと恐怖した。
「金剛殿!」
要がそれを遮ってくれたが、恐ろしかった。
「わかればいいのだ」
金剛の言葉に、叔父はウンウンと頷く。
二人の当主は白けたように、もう何も言わない。
呆れ、同情するような視線も感じた。
「……ひどいわ……」
また愛する人が傷つく事になる。
悔しさで、鎖子は呟いて唇を噛んだ。
「鎖子、俺の事はいい。金剛殿、その妻への術の施しは、誰がどのように行うのです」
「既に、鎖子姫の叔母君……当主代理の妻と腕利の呪詛師達が、別室で待機している……腹部へ呪術紋を書き足すだけだ。全員で見守らせてもらおう。これは歴史的にも研究価値のあることだ」
叔母に……?
あの不勉強な叔母に、そんなことができるのだろうか……と不安になる。
それにまるで見世物のようだ。
「鎖子、大丈夫さ~お父さんも立ち会うし、有名な呪詛師の皆様だ」
叔父がニヤリと笑う。
お父さんと言われるたびに、寒気がする。
「妻を見世物のように扱うことは許さない……!」
「見世物ではない。言っただろう。見守るべき、柳善縛家の大事な儀式なのだ。後世にも伝えなければならない」
何を言っても、考えを改めるつもりはないだろう。
もう柳善縛家の跡継ぎはいないのに……後世に伝える? なんの意味があるのだろうか?
しかし今は従う道しかない……。
「要様……私は大丈夫です」
「妻の顔色が悪い。少しだけ休ませてください」
「がっはっは! 顔色が悪いのは、まさか夫の母殺しの罪を今知ったからではないだろうな!?」
「無論、話はしてある。金剛殿、あの女を母と呼ぶのを今後一切やめていただきたい。あの日に起きた事を此処でお話しましょうか……?」
要と金剛の睨み合いが数秒。
「いやいや! それには及ばん! まぁ、あの女が話題に出るのもこれで最後だろう。死んだ者などどうでもいい。しかし殺人は殺人だ。しっかり罰を受ければな。さぁ! では準備をするぞ!!」
「……それでは少し、妻に外の空気を吸わせてきます」
要は鎖子に手を差し出して、二人で和室を出て庭に出た。
要の顔色の方が悪く思えた。
「鎖子、大丈夫か。まさか金剛に言い返すなどして、何かあったらどうする」
二人で支え合うように、寄り添う。
「出過ぎた真似ばかりして、申し訳ありません。でも……でも」
「怒っているわけではない。あいつは底が知れない外道だ。お前に何かあっては困る」
「私は九鬼兜要の妻です。妻にも夫を守りたい気持ちがあるのです」
「鎖子……ありがとう。だが、俺も同じ気持ちだ。お前は絶対に俺が守る」
「はい……もう、口を挟むことはいたしません。要様を信じています」
「あぁ。ありがとう」
お互いの瞳を見つめ合って、あの不気味な空気から少し解放されたように思えた。
「俺の罪に付き合わせて、すまない」
「いいえ……要様の罪と罰は私達の愛の証しです。私を手に入れるために……背負ってくださったんですよね」
「……そうだ。何より、お前が欲しかった」
要の狂った愛が、鎖子にはたまらなく嬉しく愛しく思う。
「あの女を殺した罪など、感じもしないし、罰を受ける必要もない……だけどお前を無理矢理に俺のものにした罪と罰は受けよう」
「はい……では要様のことが愛しくてたまらない私も同罪です……ずっと私のお傍においてくださいね」
「もちろんだ。地獄に落ちても、お前は俺だけのものだ」
「……要様……嬉しい……」
そっと寄り添い、口づけをする。
二人にしか理解できない愛でも、それでよかった。
また無粋な金剛の部下が呼びに来て、準備ができたので早く来るようにと言われた。
要に肩を抱かれて、部屋へ向かう。
狂った世界に、狂った夫婦二人。
鎖子はこの手のぬくもりだけを信じようと決めたのだった。