鬼縛る花嫁~虐げられ令嬢は罰した冷徹軍人に甘く激しく溺愛されるが、 帝都の闇は色濃く燃える~

鎖重ねの術・2

 
 初夜の時とは違い、もう心の通い合った夫婦になった二人。
 隣同士で座って、また食べさせ合ったりして徐々に緊張も解けてきた。

 食事が終わって、優しく口付けをされる。
 
「……また要様の力が減ってしまうのが悲しいです」

「気にするな、また強くなればいい……お前を守るために、力を減らされようと俺は弱くなどならない」

「はい……」

 お互いを思いやるように抱き合って、愛しあう行為が……罰の執行だなんて改めて鎖子は哀しく思った。
 でも要に触れられれば、すぐに身体は熱くなってしまう。
 罰を執行したいわけではない。
 ただ、愛する男に抱かれる……それが嬉しくて。

 布団の中で抱き合い、要が囁く。

「……鎖子を初めて抱いた夜……。俺はどれだけお前を傷つけることになるかと……震えそうだった……」

「要様……」

「でも、俺は……愛する女を抱ける……それに喜び震える俺もいた。俺は……まさに鬼だ……」

「私も……震えそうでした……」

「震えていたよ……怖かったよな」

「いいえ……ずっとずっと……大好きだった憧れの人に……触れてもらえるのが嬉しくて……罰を執行する儀式なのに、私はなんて欲深くて……罪深いのだろうと……自分が怖かったんです」

「鎖子……」

「今も……こんな状況でも、要様に愛されることは嬉しいんです……」

「俺もだよ……愛している。お前の全てが愛しい……全部俺のものだ……」

「要様……あっ……好き……」

 愛撫の火が着いて、それから二人は燃え上がる。

 書き足された呪術紋が熱くなるのがわかった。
 また、鎖子の鎖が無意識に伸びて、要を縛る。
 
 それは鎖子にとって、愛し合う時間を邪魔されるように思えたが抗うことはできない。

 鎖子の瞳から流れる涙に、要が口づけた。
 
 要も、自身の力が奪われるのを感じながらも、鎖子を優しく雄々しく抱いた。
 
 ◇◇◇

 鎖子は、検査着を着て女医に診察を受け、呪術紋だけを呪詛師と叔父に見せた。
 要の力を更に減退化させるための鎖重ねの術は、確かに発動されたと呪詛師は言った。

「おおおお……呪術紋が……定着している……素晴らしい」

 やはり、叔父の視線が気持ち悪い。
 また要が庇って、鎖子の腹部を隠してくれた。

「確認は終わった。あとは私の力が本当に減退されたかの手合わせをすれば、よろしいのですね」

 要が金剛に言う。

「そうだな。まぁ本来三日の休暇中だったはず、二日後に俺の元へ来い。そこで手合わせをして確認した後に任務をこなしてもらう……で、よろしいかな?」

 よろしいかなと聞く素振りをするが、いるのは叔父夫婦のみ。
 金剛の独壇場だと皆がわかっている。
 
「それでは、更に罪の意識をもって反省し帝国のために尽くすといい! ガッハッハ!!」

「はい。それでは失礼いたします」

 要が頭を下げ、鎖子も下げる。
 一刻も早く着替えて、この場を去りたい。
 
「行こう鎖子」

「はい」
 
「鎖子~たまには実家にも帰っておいでねぇ~?」

 叔母の甘えたような声に、寒気がした。

「私達の代で、娘が二人嫁いで柳善縛家も終わり……しみじみと家族の思い出話でもしましょう。愛蘭も待っているわよ~」

 幼い頃から、鎖子を虐げ続けてきた叔母が何を言っているのだろうか?

「え、えぇ。また……いずれに」

「じゃあねー可愛い私の鎖子ちゃん。来る時は九鬼兜家秘蔵のワインでも持ってきてねぇ~いいやつあるんでしょ?」

 ただ単に、九鬼兜家のワインを狙っているだけ?
 何もかもが、不気味に思える……。
 
 鎖子の肩を、要が抱いてくれた。
 二人でまた礼をして、部屋を出て行く。

「これで我が帝国も、安心だ!! ガッハッハ!!」

 金剛の笑いが、廊下にまで響いて聞こえた。
 あまり誰かに憤ることのない鎖子だったが、悔しいという感情が心のなかを渦巻いている。

「……何故……あんなにも五大家のなかで、金剛家が力を持つようになってしまったのですか……」

 馬車での帰り道に、鎖子はつい呟くように言ってしまった。

「……これから帝国は、戦争に向かっていく……そのなかで、鬼の力をもつ俺達華鬼族は、絶大な戦力だ……。対妖魔軍大将である金剛は、陸軍経由で巧みに政治の中枢にも入り込み……この十数年で、五大家の支配も手中に収めていた……」

 十数年……鎖子も要も、まだ子供の間に……。
 
「俺は本当に馬鹿な餓鬼だった……」

「そんな事ありません」

 要はただ、純粋に帝国を想い努力し続けただけだ。

「穢れた鬼人を全て……滅ぼしたくなるよ……」

「……要様……」

 自分を卑下するように……要が吐き捨てた。

 要の母が亡くなって、義母になった若い母。
 父と義母に薦められて、長い留学生活。
 父が亡くなって……やっと金剛と義母の企みに気付いたのだ。

 どれだけの怒りだったか、計り知れない。
 
「要様……」

「鎖子、もう大丈夫だ。俺は罰を受けた。これで平穏な日々になる……」

「はい……」
 
 二人で寄り添い屋敷に戻り、鎖子は要から離れずにいたが、疲れて早く眠りについた。
 寝顔を見つめる要は、鎖子の頬に口付ける。

 鎖子は、その日――夢を見た。
 
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