鬼縛る花嫁~虐げられ令嬢は罰した冷徹軍人に甘く激しく溺愛されるが、 帝都の闇は色濃く燃える~

不信感・1

 金剛の元へ向かう要を見送って、鎖子は一度、昼休憩時間の寮へ戻った。
 演習のあと、愛蘭の子分達に嫌がらせなどされていないか、希美が心配になったからだ。
 
 鎖子は療養中だが、部屋の荷物を取りに来たというと許可された。
 食事のあと、部屋で休んでいた希美に会えた。

「鎖子ちゃーん! うわーん会えて嬉しいよぉ! 身体は大丈夫なの!?」

「もちろんです。元気ですよ。ご心配をおかけしました。愛蘭の友人達から嫌がらさせなどされていませんか?」

「うん、全然大丈夫だよ。ってかさ~風の噂だけど、愛蘭はもう大学校を辞めるって言ってるらしいよ」

「愛蘭が……」

「まぁ衝撃的だったのはわかるけど。まぁ、あんなのいない方がいいよね~。でもあの馬鹿隊長は、寮に戻ってきてるよ」

 部屋で色々と話をしたあと、鎖子は寮を出ようと正門まで一人歩く。
 
「鎖子……!」

 不快な声で呼ばれ、鎖子は一瞬身を固くした。
 
「金剛さん」

 立っていたのは、金剛将暉だ。
 将暉様、とはもう呼ばない。

「お、お前はもう復帰するのか」

「……まだ療養中ですが、開けましたら復帰するつもりです」

「お前のせいで……愛蘭は、愛蘭は……」

 愛蘭こそ、事故の原因であり命を救われたのだが、いつでも事実が捻じ曲げられる。

「すみません。これで失礼いたします」

 此処で将暉と会話をしても、鎖子にとって良い事などなにもない。
 しかしまだ将暉は後ろから叫ぶ。
 
「待て! あ、あいつは! あの男は、もうすぐに死ぬだろうな!」

「……あいつ……?」

「お前の夫だ。すぐに死んでお前は、未亡人になるだろう」

「要様が死ぬことなんて、絶対にありません……!」

 話をする気はなかったが、あまりの言葉に言い返してしまった。
 要がもうすぐ死ぬ……?

「馬鹿な女だ! 未亡人になってから俺のもとへ来るか、それともその前に俺が助けてやろうか」

「助け?……なんの話ですか」

「お前は身売りされた哀れな女だろう。だから助けてやってもいいと言っているんだ」
 
 将暉の言葉に、違和感を覚える。
 鎖子が、無理やりに要と結婚させられたと今でも思っているのだ。
 
「私は要様と、幸せな結婚生活を送っております」

「なんだと……」

「それとも私がこれから、どうなるのか、要様が何かされるのか、そういう企みでもあるのですか?」

「た、企みなど……あるわけがないだろう! ふ、不幸になるに決まってる! あんな男の嫁になったんだからな! そうなってから、俺に助けを求めても知らないぞ!」

 何が起きようが、将暉に助けを求めることなどありはしない。
 この男には、一体何が見えているのだろう。
 叔父とは違う不気味さを感じる。

「俺のところに来るなら今だぞ。処女ではなくとも受け入れてやると言っているんだ……ありがたく、」

「あの、約束がありますので、失礼いたします」

「あっ……鎖子……不幸になるぞ! お前は絶対に不幸になる! あの男などすぐに死ぬ! だからお前は……俺の……花嫁に……」

 明らかに、鎖子への執着を滲ませた将暉。
 鎖子は逃げるように、寮を出た。

 要との幸せな結婚生活を手に入れたのに。
 それを壊そうとしている、悪意を感じる。
 
 あの金剛将暉は、何か恐ろしい事を考えている――そう思った。

 その日の夜。
 やっと要が帰宅し、出迎えに玄関に急ぐ。

「鎖子、ただいま」

「おかえりなさいませ要様……! お身体は」

「今日は手合わせのあと、会議に出ただけだ。大丈夫だ」

 ホッとして、まわりの目も考えず要に抱きついてしまった。
 要も気にせず、鎖子を抱き締める。

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