鬼縛る花嫁~虐げられ令嬢は罰した冷徹軍人に甘く激しく溺愛されるが、 帝都の闇は色濃く燃える~

十三歳・小等部卒業パーティーでの再会・2

 再会したばかりだというのに、もう別れの時間。

「もう……ですか」

「そうなんだ。休暇での帰国じゃないので、落ち着く暇もない」

 要はもう、立派な軍人として働いているのだ。
 気軽に要くんなんて呼べない距離を感じた。
 
「……要く……要様……」
 
「どうした?」

「いえ、あの、すみません……」

「なんで謝るんだ。相変わらずだな。謝ることなんてないじゃないか。本当に久しぶりだな」

 優しい微笑みにドキリとした。

「すみませ……あ、いえ、お、お久しぶりです」

 上手く話すことができない。
 どもって恥ずかしい。
 
「葉書あまり出せなくて、すまない」

「き、気にしないでください……忙しいってわかっておりますから」

「ありがとう。でも、俺にとって……励みになっているから返事をくれたら嬉しいよ」

 まさかの言葉に、鎖子の心は飛び上がる。
 
「は、はい……! か、必ず……お返事いたします……!」

「まだ、愛蘭達の嫌がらせは続いているのか?」

「だ……大丈夫です。あの……海外でのご活躍、聞いております」

 いつも嫌がらせをされて、惨めな日々。
 要の立派な姿と、丈の合わないような古いドレス姿の自分が恥ずかしくなってきた。
 
「久しぶりでそうなってしまうのもわかるが、俺にそんな話し方をするなよ」

「……す、すみません……」

「謝らなくていいから」

 要が、困ったように微笑む。

「……すみません、あ……」

「ふふ、まぁいいさ」

 いつも愛蘭や叔母夫婦に怒鳴られ続け、謝るのが癖になってしまった。
 情けないと思ったのに、要に優しく微笑まれ、鎖子は頬が熱くなるのを感じた。

「最近、陸軍にも配属されたんだ。対妖魔軍と兼任で。それでもう忙しくて」

「……陸軍にも……」

 要の胸元には、勲章が輝いている。
 
「あぁ。戻ってきたら、この力を帝国に捧げ、帝国を世界で一番平和な国にしたい」

「す、素晴らしいことだと思います。とても立派で……すごいです」

「そんな事ないさ」

 力強く微笑む要も輝いている。
 彼は自分の夢を着実に叶えようとしている。
 鎖子も、そんな要を思って頑張っているつもりだった。
 でも、遥か彼方に行ってしまったように思える。

 やっぱり惨めで恥ずかしい……。
 
「……どうした?」
 
「い、いえ。なんでもありません。すみません」

 慌てて答える。
 上手に話せない。
 要も困っているに違いない。
 
「そうか。えっと……あの」

「は……はい」

「ドレス、似合ってるよ。すごく……綺麗だな」

「えっ」

 要が少し、横を向いて照れたように言った。
 軍服で大人に見えた彼が少し見せた少年っぽさ。

 まさか褒めてもらえるなんて……。

 心臓がドキドキして、頭がどうにかなってしまいそうだ。

「あ、あ、ありがとうございます」

「これを、渡そうと思って」

 小さな長方形の箱を渡される。
 綺麗な包装紙で、リボンがかけられていた。

「これ……は?」

「土産だ。でも、俺はよくわからないので、店員が人気だと言うのを買ったんだ……気に入らないかもしれん」

「あ、ありがとうございます。どうしよう……私は何も用意してなくって。すみません」

「これは、土産だ。俺には何もいらないよ。少しでも会えてよかった」

 要が懐中時計を見た。
 この時間が終わるということだ。

「か、要様……もう?」

「あぁ、行かなきゃ」

「つ、次はいつ会えるんでしょうか……」

「あと五年くらいで帰ってこれるかな」

「五年もまだ……」

「あぁ、頑張るよ、あと五年だ」
 
 寂しさで胸が苦しくなる。
 でも要にとっては、あと五年という未来は明るいのかもしれない。
 
「……また会えるの、楽しみに待っています」

「俺もだ。あの鎖子……俺は、お前を……」

「は、はい……」

「俺は……」

 『キャー! 要様よーー!!』
 と要の言葉を遮る黄色い叫び声。
 要を見つけた女子が一気に要に押し寄せた。

「いや……今度の機会に話そう。鎖子、ではまた。元気で……!」

「は、はい……また……!」
 
 そう言って優しく微笑むと、要は急いで去って行った。

「要様ぁ~~~っ!! お待ちになって!!」

「きゃ!」

 要を追いかける女子たちに、突き飛ばされてしまった。
 寂しさが募るが、心の中には温かさが残る。

「あ! ハンカチ……返すの忘れてしまってた……」
 
 握りしめてしまったハンカチを返すことも忘れてしまっていた。
 帰宅してから、箱を開けると、綺麗な紅いリボンが入っていた。
 要の瞳のような紅いリボンは艶めいて輝いている。
 
「……素敵……なんて綺麗なの……」

 海外製のリボンは高級品で、女子の憧れだ。
 愛蘭は沢山のリボンを買ってもらって見せつけてくるが、鎖子は持っていなかった。
 
 黒髪につけてみて、割れた鏡で見る。
 とてもとても可愛かった。

 輝くリボン。
 それは鎖子の宝物になった。
 
 しかし次の再会は、鎖子にとって辛いものになる。
< 6 / 78 >

この作品をシェア

pagetop