鬼縛る花嫁~虐げられ令嬢は罰した冷徹軍人に甘く激しく溺愛されるが、 帝都の闇は色濃く燃える~

不信感・2

 鎖子のもとへ帰宅した要。

 気になるのは、金剛との手合わせだ。

「金剛とはどうだったのですか?」

「あぁ手合わせで納得したようだ。俺を負かして嬉しそうに笑っていたよ」

「ひどいです……!」

「そういう男だ。別にただの稽古試合だし、勝って怪しまれても困るしな。鎖子の術は完璧だと証明されただけで俺はいいんだ」

「でも……でも」

「鎖子……いつも心配をかけて、すまない」

「心配なのは……大事な旦那様だからです」

「また、可愛いことを言う」

 ぎゅっと抱きしめられて、鎖子も胸元で目を細める。
 気付けば、岡崎達は玄関内に入っていたようだ。
 
 今日は鎖子の準備した夕飯で、要も喜び楽しい時間を過ごした。
 その後、要が部屋で白ワインを開け二人で乾杯する。
 
「どうだ? 今日のワインの味は」

「はい。今日の白ワインも甘くて美味しいです」

 鎖子のために甘みが強いタイプのものを、選んでくれたようだった。
 ドライフルーツとチーズがよく合って、美味しい。
  
「こうして任務のあとに、妻と酒を飲む時間は悪くない」

「私も幸せです。今日の会議はなにごともありませんでしたか?」

「これから、妖魔退治など比べ物にならないほどの……戦火が、この帝国を包む事になるかもしれない……そう思うような会議だった」

「要様……これから、どうなるのでしょうか。金剛達がまだ何か企んでいるような気がするのです……」

「俺もだ。金剛が、何か動いている気配を感じる。あいつは……もっと権力を望んでいるのか? それに将暉はお前に気があるだろう? だから俺を殺したいのか……」

「……将暉さんは……気持ちが悪いです……」

「愛蘭との婚約は、ただ柳善縛家を根絶させるため。……俺を殺して、鎖子を将暉の側室として迎えることを考えているのかもしれない」

 わざわざ鎖子との結婚を許したのは謎ではある。
 だが鎖子の役目が終わった今、改めて将暉の側室にしようとしている……?

「……要様が、そんな事になったら私も死にます……!!」

「俺がそんな事はさせない。死ぬつもりもないしな。全ての鬼を滅ぼしてもお前だけは守る……だから鎖子も何があっても生き延びると約束してほしい」

「はい。どんなことがあっても二人で……」

「……そうだな」

「二人で……でもいつか……」

 『二人』という言葉から、ふと自然に湧いた考え。
 恥ずかしそうに下を向いた鎖子。
 それに気付いた要が、鎖子の肩を抱く。

「いつか……?」

「えっと……あの……私と……要様との」

「うん。教えてくれ」

 要は嬉しそうに、優しく囁く。

「あの……要様の……お子を……」

「……いつか俺の子を産んでくれるか……?」

「はい、要様の赤ちゃんがほしいです……いつか家族三人で幸せに暮らしたい……です」

「そうだな。まだまだ俺は、死ぬわけには、いかないな……」

 想像だけでも、愛しく温かく、二人は微笑んで抱き締めあった。
 
「でも、避妊の術を更にかけられてしまって……解術方法があるのかどうか……」

「罪人と愛し合う執行官など、今までいなかったのだろうからな……でも必ずあるはずだ」

「要様……私、柳善縛家のことを、そして鎖子という名と力を継いだ者として、しっかりと知らなければ……と思うんです。私達の、そして未来の子供のために……」

 二人の子供は、鎖子の能力を受け継いでいる可能性は大いに有り得る。
 その時に、きちんと説明できる母でありたい。
 自分の母が果たせなかったことを。

「どうするつもりだ」

「家に行って、色々と調べたいと思っております。でも無理はしませんから……」

「危険はないか?」

「大丈夫です。愛蘭より、私は強いのですよ」

「あぁ、それはわかっている。もしもお前に危害を加えるなど、そんなことがあったら今度こそ皆殺しだ」

「要様……ふふ」

 笑い話ではないし、要は本気だ。
 でも、嬉しくて笑みをこぼしてしまった。

「本当だ。俺にはもうお前以外に大事なものは、ない」

「はい……安全に調べます……だから要様」

「ん……」

「二人きりの今は……幸せな時間を楽しみましょう」

「そうだな……今は二人で、この幸せを楽しむか……鎖子を沢山可愛がりたい……」

「要様……」

「鎖子に狂う俺は、いやか……?」
 
「大好きです……私も要様に狂っております」

「では……二人で狂おう。俺に狂った鎖子だなんて最高に可愛い」

 狂っていようが、なんだろうが要に褒められたら、なんでも嬉しい。
 

 
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