鬼縛る花嫁~虐げられ令嬢は罰した冷徹軍人に甘く激しく溺愛されるが、 帝都の闇は色濃く燃える~
叔父の正体
写真では眼鏡をかけており、髪型は黒の短髪だ。
出会った時から、派手好きで、チンピラのような遊び人の叔父。
印象が全く違う……。
でも、鎖子にはわかった。
奴隷のように扱われながら、毎日見てきた顔だ。
これは叔父に間違いない。
叔父が……研究員?
「鎖子ちゃん?」
「……あ……あの、いえ……なんでもないの」
「顔が真っ青だよ! 座らせてもらおう。兄貴、椅子ー!」
「あぁ、座って座って! 貧血かな? 横になる?」
「すみません。立ち眩みで……あ、これ……ありがとうございます」
さすがに写真を持ち帰ることはできないので、波太郎に返した。
「うん。なにかわかったのかな……まぁ、珈琲でも淹れようか」
鎖子が落ち着くようにと、波太郎は珈琲を淹れて渡してくれる。
その写真以外には、手がかりになるような事は結局なかった。
「なんの力にもなれなかったけど、僕が言えるのは……鬼人の潜在能力は、やはり遺伝されるものだからね」
「遺伝……はい」
「何も伝えられていなくても、お母さんから授けられた力が無意識に君を導くかもしれない」
確かに、鎖の力は鎖子が物心ついた時から使える力だ。
両親が守ってくれる愛のように感じる。
「……波野さん、ありがとうございます」
「……というわけで、少し柳善縛家の力を見せてくれないかな~!?」
「兄貴ー! 変態くさいんだけど!」
「な、何を言う! 鎖が見てみたいんだよ~~」
「あ……は、はい。どうぞ」
研究員達にとって、柳善縛家のような特殊な力は貴重な研究材料のようだ。
鎖のオーラを具現化して見せると、波太郎は飛び上がって喜ぶ。
鎖子の呪術紋を見た時の、叔父のようだった。
これが研究員の性なのだろうか。
さすがに、鬼妖力を減退させる力の事は聞かれなかったので安心した鎖子だった。
「今日はありがとうございました」
「僕こそ、柳善縛家の力を見せてもらえて興奮しちゃったよ。ありがとう」
「鎖子ちゃん、大丈夫? なんかちょっとフラフラしてるよ」
「うん。大丈夫。希美ちゃん、本当にありがとう」
叔父は、柳善縛家のことを研究する研究員だった。
そしてその研究組は、金剛の指示で作られ解体されたという噂が……。
鎖子の心のなかは、すぐにでも要に会って話がしたいという想いでいっぱいだ。
しかし馬車の迎えは、夕方に頼んであるし要が帰宅しているのか、わからない。
「九鬼兜鎖子」
「はい」
時間まで部屋で過ごそうとして、希美と歩いていた鎖子に、女上官が声をかけた。
「九鬼兜家から急ぎの用事ということで迎えが来ている。すぐに帰宅しなさい」
「えっ……はい!」
慌てて、部屋に戻って支度をする。
「希美ちゃん、改めて御礼をさせてくださいね……!」
「そんなのいらないよ~! 兄貴も喜んでいたしね。気を付けて帰ってね」
「はい……うん! ありがとう!」
時間を早めての迎えに、鎖子は要に何かあったのかと馬車乗り場へと急いだ。
「鎖子……!」
しかし、鎖子が馬車に駆け寄ると姿を現したのは要だった。
「要様……!?」
「鎖子、さぁ馬車に乗れ」
優しく手を差し出されて、荷物も持たれて馬車に乗り込む。
要が馬車を出すように、御者に伝えて馬車は走り出す。
「大丈夫か?」
座席で肩を抱き寄せられた。
そのまま要の胸元に、抱きついてしまう。
「要様、一体どうして? 何かあったのですか?」
「お前の不安を感じたような気がして……。ただの勘なんだが、つい迎えに来てしまった」
「では、私のために……?」
「ん、でもただ俺が早く会いたかっただけかもしれない」
要も朝方に帰宅したが、夕方より早く迎えに来てしまったとのことだ。
また想いが通じ合っていた事に、鎖子の瞳が潤む。
「要様……! 私も、私も、今すぐにお会いしたかったのです!」
「そうか、何かあったのか……?」
強く抱きしめてくれる要の腕のなか。
何よりもホッとして、安心する。
優しく髪を撫でてくれる要に、鎖子は今日知った衝撃の事実を話し始めたのだった。