鬼縛る花嫁~虐げられ令嬢は罰した冷徹軍人に甘く激しく溺愛されるが、 帝都の闇は色濃く燃える~

鎖子の抵抗・2

 鎖子の鎖が、愛蘭を縛り上げる。

「おお!? 柳善縛の力か!」

 和博は感激して、鎖子の鎖を見た。

「まずはこの身体に盛られた毒を……愛蘭あなたに全部あげる……!」

「やだぁ! なになになに!? ぎゃああっ!!」

 縛られた愛蘭が、痺れたように痙攣して倒れた。

「ほう、鎖子姫はこんな事もできるのか」

「毒を相手に移すだと!? 鎖子、お前はこんな能力を隠していたのか!! 何故、研究させなかった!!」
 
 愛蘭に、イタズラで何度か毒も飲まされた。
 あまりの苦しみで無意識に鎖を木に巻き付けてしまった時、木が枯れた。
 その時に知った能力だった。

「気持ちが悪いから、黙って!!」
 
 鎖子が、和博に叫ぶ。
 毒を愛蘭に与えて、身体が動くようになった鎖子は立ち上がる。
 さすがに娘が倒れたのを見て、叔母も駆け寄っていく。
 愛蘭に絡んだ鎖を、更に叔母にも伸ばしてキツく締め上げた。

「ぎゃあっ!」

 愛蘭も叔母も倒れたまま呻いている。
 
 鎖子の周りをまた新たな鎖が、守るように出現した。
 
「金剛も、お前達も許さない……! 全員……殺す!」

 湧き出す殺意に、鎖子の鬼妖力が共鳴し、鎖が蛇のように轟く。 
 
「柳善縛家の鎖は、ここまで具現化するのか! すごい! すごいぞ!」

 拘束されて苦しむ妻と娘を見ても、和博は研究欲を隠さない。
 手帳に夢中で書き綴っている。
 
(おぞ)ましく汚れた研究心で、よくも私達を……!」

 鎖子は和博にも、鎖を放ち思い切り締め上げた。
 
「わぁあ! すごいぞ! この締め具合! あっあっああああ!」 

 今までいくらでも、この親子にやり返すことができた。
 それでも、虐げる事はしなかった。
 同じ屑にはなりたくなかった……でも、それを全て後悔している。

「お前達のような外道もっと早くに殺せばよかった……! 金剛、次はあなたを殺す……!」

 鎖子が何をしようと、何も言わずに見ていた金剛が笑いだす。

「ふははは!! 殺すと言って、まだそいつらを生かしているではないか? 刀も持たず、か弱い乙女が俺を殺すと!? 可愛い可愛い、鎖子姫よ。生かさず殺さず俺が可愛がってやろう!」

 金剛勝時が、刀を抜く。
 鎖子が鎖をぶつけるが、一刀両断されてしまった。

「くっ……!」

「さ、鎖子……鎖子が乱心したぁ! 誰かーー!」 

 鎖子が勝時に戦いを挑んだのを見て、将暉は愛蘭も助けずに逃げて行った。

「可愛い鎖子姫よ、自慢の鎖は俺には効かんようだぞ!!」 

「刀を……千祈様を取り戻さなくては……!」

 白無垢を脱ぎ捨てて、鎖子は広間を走る。

「ふははは!! 元気な花嫁だな!! 夫と追いかけっこか! 外に逃げられては困るからな! 結界を張ってやろう」

 どす黒い結界が、統率院の屋敷を囲むように一気に張られた。

「うっ……苦しい……なんて穢れた結界……!」

 結界は重苦しく、視界も悪い。真っ黒な毒ガスのようだ。
 金剛の強さが理解できる。

 足がもつれ、転んでしまうがそれでも走る。
 鎖で、続く和室の襖を破壊して何か武器がないかを探すが、何もない。

「くっ……!」

 花瓶を投げつけても、金剛は笑って刀で花瓶を粉砕する。

「なんだ……九鬼兜に抱かれた部屋で、俺に抱かれたいのか? なんとも良い趣味をしている」

 気付けば、確かに要と初夜を共にした部屋まで来ていた。
 玄関へ向かうはずが、黒い煙のような視界で迷ってしまったのだ。

「穢らわしい化け物のような男などに、夫の力は絶対に渡しません!」

 自分の中に要の力がある。
 絶対に渡さない!
 
 この部屋で行き止まりだ。
 縁側から外には、結界の力で出られない。

「さぁ! 早く抱かせろ!」

 鎖子は、また金剛に鎖をぶつけ、脇をすり抜けた。

「ほらほら、斬られてしまうぞ!」

「きゃっ……!」

 左足を斬りつけられたが、鎖子はまた長い廊下を走る。
 白い掛け下が真っ赤に染まっていく。
 治癒術を使う隙などない。

「はははっは!!」

 金剛は楽しそうに笑う。
 あの男の笑い声を止めてやりたい。

 今度こそ、行き先を間違えないようにと思って走っているのに、先程の大広間へ戻ってしまった。
 愛蘭達が、転がっている。

「……なに、これは本物の煙……?」

 どこかで蝋燭でも倒れたのか、金剛の結界ではなく、本物の火が上がったようだ。

「なんだこれは……火か! 消火活動をしろぉ!!」

 しかし、誰も消火活動をし始める様子もない。

「何故誰も来ない!」
 
 これは好機だ……!
 鎖子は、また逃げ出そうとする。

「鎖子姫……少々暴れすぎたかな……?」

「きゃあっ……!」

 瞬時に、鎖子の目の前に現れた金剛。
 やはり今までのは遊びだったのだ。

「さぁ黙って抱かれろ!!」

 鎖子の腕を引きずって、布団へ捨てるように投げられる。
 
「ははははは! 火が回る前に、抱き潰してやろう!!」

「あなたは……正気じゃないわ……!」

「うるさいわ!! 俺はまだまだ帝国に必要な軍人なのだ! 若さと強さを取り戻すのだ!! さぁ、時間もない! 斬られて(はらわた)が出たまま抱いてほしいのか!? まずは腕一本斬り落としてやるか!!」

 金剛が片手で刀を大きく振りかぶるった。
 
 殺されてもいい、それでもこの力だけは渡したくない――!! 
 
 要様――!!

 屈するものかと鎖子は目を瞑ることなく、切っ先を睨む。

 一秒後に、斬られる。

 そう思ったが、金剛の刀の切っ先は鎖子の身体には届かなかった。
 火花が散ったかと思うと、金剛の刀が遠くの襖に突き刺さったのだ。

「……あ……」

 鎖子の前に、軍服姿の男が立ちはだかっていた。


「俺の花嫁を返してもらおう」
   

 
 
< 75 / 78 >

この作品をシェア

pagetop