鬼縛る花嫁~虐げられ令嬢は罰した冷徹軍人に甘く激しく溺愛されるが、 帝都の闇は色濃く燃える~
十八歳・突然の婚姻話・2
愛蘭の顔が、いつも以上に醜く歪む。
「鎖子お姉ちゃんの淫乱の力が、使われることになるのね! うふふ穢らわしい! ぴったりだわ!」
「この力があって柳善縛家は成り上がったのだから、そんな風に言ったら駄目よ~ふふふ~~あはは。統率院からも今回の働きで家にお金が入るし、九鬼兜家からも結納金が入るし嬉しいわね~」
叔母もいやらしく笑う。
当然のように自分の金にするつもりなのだ。
この叔母は、柳善縛家を嫌って若い頃に家を出た。
男と散々に遊び尽くして、チンピラのような男……つまりは叔父と結婚した。
柳善縛家の財産で飾り立てても、下品さと下劣な心は隠せない。
「お前は謀反人の鬼と結婚。私は華鬼族で一番の金剛家の次期当主、恋人の将暉に嫁入りする事になったのよ~! いいでしょ~~!! あはは! クサ子と謀反人はお似合いだわ」
愛蘭が嘲笑う。
自分はどう言われてもいい、でも……と鎖子は愛蘭に振り返った。
「九鬼兜要様は、帝国のために戦われている立派な御方です。それを……きゃ!」
「口答えすんじゃないわよ! あんたは九鬼兜先輩を弱らせる鬼女! 九鬼兜家でも散々嫌がらせさせられるんでしょうね~! かっわいそ~!! 地獄はこれからだよ! ざまぁ~~!!」
「おほほ。じゃあ鎖子。私も、うろ覚えなんだけどねぇ。鎖の儀のやり方教えておくわ。座って」
義母が、タバコを吸いながら鎖子に言う。
鎖子の力、それは彼女を抱いた鬼の力を減退させる力。
鬼を縛る――。
それが罰の執行官・柳善縛鎖子の使命。
力にこだわる鬼人達には、その存在が反乱の抑止力になったのだ。
しかし近代化が進んだこの百何十年、そのような使命を果たすことのないまま柳善縛家は続いてきた。
亡くなった母・鎖子も、普通の人のように父と愛し合い、娘の鎖子を産んだ。
鎖子は自分も、ただ柳善縛家の当主の誇りだけを胸に抱いて、力など使うことなく一生を終えると思っていた。
「鎖の儀のやり方……本がなくても、叔母様はご存知なのですか?」
柳善縛家に代々伝わる古文書と、鎖子の実の母が書き貯めていた文書は、愛蘭がイタズラで燃やしてしまった。
あの時もどれだけ鎖子が泣いたことか……。
ソファに座ると、叔母からタバコの煙を吹きかけられる。
「あ~母親から聞いた話ね。教える事なんか特にないの。伝わる避妊薬飲んで、股を開いときゃ、男が勝手にするでしょ。終わったら、もう術は完了している~って話」
酷い言い方に、鎖子は言葉に詰まる。
「それだけ」
「勝手に相手の力が減退するの。一回やるだけで終わりよ」
「一度だけ……」
「そうよ。罪人相手にあなただけ、なんて誓うわけないでしょ。罪人がいっぱいいたら、何人も相手しなきゃいけなかったんだから」
「は、はい……」
とんでもない話で、目眩がしてくる。
「あの、愛する人と結ばれる時にも……そうやって相手の力を奪っていたんでしょうか?」
鎖子の両親は、とても仲が良かった。
愛し合って結婚したと、鎖子は思っている。
いつも、二人で抱き合い、口づけを交わして、鎖子にもよく頬に口づけしてくれた。
そんな愛し合う二人の間でも、無慈悲に術は発動されてしまうのだろうか?
「そうなんじゃない?」
「そ、そんな適当な……」
「いいじゃない。どうせ、罪人と結婚するんだから」
「でも……いえ……」
今回の婚姻話があろうかなかろうが、鎖子の将来など考えてもいなかったのだろう。
「ふん、何が柳善縛よ。ただの淫乱女の力で成り上がっただけのくせに偉そうにさ。それなのに上品ぶって大嫌いだったよ。お姉ちゃん……あんたの母さんなんてね! だから、あんたがその力を引き継いで謀反者に嫁ぐのが、面白くて仕方ないわぁ~。私の愛蘭は、金剛家に嫁入りする! 私は勝ったんだ! 姉に!! 全てね!!」
最後は自分の母への恨みを吐いて、叔母はウイスキーを煽る。
その横で愛蘭は、今回入る金で何を買おうかと独り言を呟いていた。
「一度だけでも、しっかりと執行官としての任務を果たしてくれよ……お前の力を見せてくれ……柳善縛鎖子の名に恥じないようにな」
叔父がニヤニヤと笑いかけてくる。
鎖子は逃げるように部屋に戻った。
「一度だけ……じゃあ、どうして……私は嫁入り……するの……?」
突然の婚姻……。
嫌われていても、鎖子にとってはずっと初恋の人に変わりなかった。
その要に、抱かれる……? そして罰を実行する?
鎖子の心は震えるばかりで、受け止めきれない。
「鎖子お姉ちゃんの淫乱の力が、使われることになるのね! うふふ穢らわしい! ぴったりだわ!」
「この力があって柳善縛家は成り上がったのだから、そんな風に言ったら駄目よ~ふふふ~~あはは。統率院からも今回の働きで家にお金が入るし、九鬼兜家からも結納金が入るし嬉しいわね~」
叔母もいやらしく笑う。
当然のように自分の金にするつもりなのだ。
この叔母は、柳善縛家を嫌って若い頃に家を出た。
男と散々に遊び尽くして、チンピラのような男……つまりは叔父と結婚した。
柳善縛家の財産で飾り立てても、下品さと下劣な心は隠せない。
「お前は謀反人の鬼と結婚。私は華鬼族で一番の金剛家の次期当主、恋人の将暉に嫁入りする事になったのよ~! いいでしょ~~!! あはは! クサ子と謀反人はお似合いだわ」
愛蘭が嘲笑う。
自分はどう言われてもいい、でも……と鎖子は愛蘭に振り返った。
「九鬼兜要様は、帝国のために戦われている立派な御方です。それを……きゃ!」
「口答えすんじゃないわよ! あんたは九鬼兜先輩を弱らせる鬼女! 九鬼兜家でも散々嫌がらせさせられるんでしょうね~! かっわいそ~!! 地獄はこれからだよ! ざまぁ~~!!」
「おほほ。じゃあ鎖子。私も、うろ覚えなんだけどねぇ。鎖の儀のやり方教えておくわ。座って」
義母が、タバコを吸いながら鎖子に言う。
鎖子の力、それは彼女を抱いた鬼の力を減退させる力。
鬼を縛る――。
それが罰の執行官・柳善縛鎖子の使命。
力にこだわる鬼人達には、その存在が反乱の抑止力になったのだ。
しかし近代化が進んだこの百何十年、そのような使命を果たすことのないまま柳善縛家は続いてきた。
亡くなった母・鎖子も、普通の人のように父と愛し合い、娘の鎖子を産んだ。
鎖子は自分も、ただ柳善縛家の当主の誇りだけを胸に抱いて、力など使うことなく一生を終えると思っていた。
「鎖の儀のやり方……本がなくても、叔母様はご存知なのですか?」
柳善縛家に代々伝わる古文書と、鎖子の実の母が書き貯めていた文書は、愛蘭がイタズラで燃やしてしまった。
あの時もどれだけ鎖子が泣いたことか……。
ソファに座ると、叔母からタバコの煙を吹きかけられる。
「あ~母親から聞いた話ね。教える事なんか特にないの。伝わる避妊薬飲んで、股を開いときゃ、男が勝手にするでしょ。終わったら、もう術は完了している~って話」
酷い言い方に、鎖子は言葉に詰まる。
「それだけ」
「勝手に相手の力が減退するの。一回やるだけで終わりよ」
「一度だけ……」
「そうよ。罪人相手にあなただけ、なんて誓うわけないでしょ。罪人がいっぱいいたら、何人も相手しなきゃいけなかったんだから」
「は、はい……」
とんでもない話で、目眩がしてくる。
「あの、愛する人と結ばれる時にも……そうやって相手の力を奪っていたんでしょうか?」
鎖子の両親は、とても仲が良かった。
愛し合って結婚したと、鎖子は思っている。
いつも、二人で抱き合い、口づけを交わして、鎖子にもよく頬に口づけしてくれた。
そんな愛し合う二人の間でも、無慈悲に術は発動されてしまうのだろうか?
「そうなんじゃない?」
「そ、そんな適当な……」
「いいじゃない。どうせ、罪人と結婚するんだから」
「でも……いえ……」
今回の婚姻話があろうかなかろうが、鎖子の将来など考えてもいなかったのだろう。
「ふん、何が柳善縛よ。ただの淫乱女の力で成り上がっただけのくせに偉そうにさ。それなのに上品ぶって大嫌いだったよ。お姉ちゃん……あんたの母さんなんてね! だから、あんたがその力を引き継いで謀反者に嫁ぐのが、面白くて仕方ないわぁ~。私の愛蘭は、金剛家に嫁入りする! 私は勝ったんだ! 姉に!! 全てね!!」
最後は自分の母への恨みを吐いて、叔母はウイスキーを煽る。
その横で愛蘭は、今回入る金で何を買おうかと独り言を呟いていた。
「一度だけでも、しっかりと執行官としての任務を果たしてくれよ……お前の力を見せてくれ……柳善縛鎖子の名に恥じないようにな」
叔父がニヤニヤと笑いかけてくる。
鎖子は逃げるように部屋に戻った。
「一度だけ……じゃあ、どうして……私は嫁入り……するの……?」
突然の婚姻……。
嫌われていても、鎖子にとってはずっと初恋の人に変わりなかった。
その要に、抱かれる……? そして罰を実行する?
鎖子の心は震えるばかりで、受け止めきれない。