最期の晩餐

最期の晩餐

 隼人のお母さんの葬儀を終え、隼人は明日からまた学校へ出勤する。

 隼人が元気に働けるように、今日はちょっと豪華な手料理でも振る舞おうと、仕事帰りに材料を調達し、隼人のアパートへ向かった。

 アパートの前で隼人を見つけ、

「隼……」

 駆け寄ろうとした時、

「隼人‼」

 サラサラロングの髪を靡かせた女が、隼人に抱きついた。

 驚きのあまり、何故か建物の隙間に身を潜めてしまった。誰なんだ、この女。

 隼人に抱きつく女の肩は上下に揺れていて、どうやら泣いているらしい。

「どうしたの? 大丈夫? 亜子」

 隼人がその女の髪を撫でた。

 ……亜子って。優しくて気立てのいい、とっても良い子の隼人の元カノじゃないか。

 こんな時、漫画やドラマだったら、ショックで手に持っていたものを地面に落とし、その音に彼氏が気付いてしまい、慌てて逃げる彼女を走って追いかけるパターンになるのだろう。でも実際は買い物袋の取っ手を怒りのあまりに握りしめ、落としようもないし、走って逃げたりもしない。ずんずんふたりの方へと向かって行く。

「何してるの?」

「え⁉ 奈々未⁉ 何でもない‼ 何もないよ‼」

 突然現れた私に慌てふためいた隼人が、自分の身体から元カノを引き剥がした。
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