記憶をなくした女騎士、子育てに奔走していたら元彼が追いかけてきたらしい

2.

 どれくらい眠っていただろう。部屋の空気がほのかに白み始め、夜と朝が溶け合う微妙な時間帯。アリシアが小さく身じろぐと、素肌に触れるシーツが、かさりと音を立てる。
 昨日、喘ぎすぎたせいか喉がからからに渇いていた。水を飲むために身体を起こすと、昨夜の熱の名残が足の間からどろりとあふれ、肌をつたって流れていく。
 そっと視線を横に流せば、彼はまだ気持ちよさそうに眠っている。
 普段は眠りの浅いジェイラスだが、昨日はお酒も入ったうえに、何度もアリシアを求めてきた。なによりも彼は、アリシアが側にいることで安心して眠ることができる。
(そういえば……初めて顔を合わせたときは、ひどい顔をしていたかも……)
 それは伝令係として配属され、ジェイラスに初めて呼び出されて命令を受けたときだ。
 彼は団長らしく威厳に満ちた表情でありながらも、どこか疲れを感じさせた。だが本人はそれを隠しているし、恐らくそれに気づいた者はアリシア以外いなかったのかもしれない。
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