記憶をなくした女騎士、子育てに奔走していたら元彼が追いかけてきたらしい

3.

 その後、アリシアは休職する手続きを滞りなく行い、宿舎にある自室も、五年間はそのまま残しておけることとなった。五年経っても騎士団に戻る意志がなければ、そのまま除名処分となるようだ。自室におきっぱなしにしてある荷物は、騎士団で処分するとのこと。
 必要最小限の荷物を手に、ゆったりとしたワンピースをまとったアリシアは、馬車乗り場へと向かった。朝日が髪をやわらかく照らす。
 街はどこか浮き足立っているようだった。市場の喧騒や行き交う人々の顔には、いつもより明るい喜びが漂っている。
 アリシアが田舎のガネル子爵領に戻るには、港街サバドを経由しなければならない。そこで馬車を乗り換え、緑豊かな丘陵を越えて北へ進んだところに領地がある。両親に顔を見せた後は、誰一人自分を知らない遠い土地へ旅立つのもいいかもしれない。
 人生の再スタート。
 だがアリシアとしては、仕事を放り出して実家に戻る形になってしまったことに胸も痛むし、無責任だとは思っている。
 それでも彼の気持ちを知ってしまった以上、もうあそこにはいられない。いるのが辛い。
 そう考えたら、いてもたってもいられなくなって「辞めます」と団長に突きつけていたのだ。団長の機転のおかげで休職扱い。気持ちが落ち着いたときには、騎士団に戻ってもいいだろう。
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