婚約者が妹と結婚したいと言ってきたので、私は身を引こうと決めました

4、聖女

私を結婚式から奪い返し、愛を貫いたグレイブ。

だがその代償は大きかった。

公爵である父の逆鱗に触れた私は、実家への出入りを禁じられ、身の置き場を失った。


「すまない。俺のせいで。」

「ううん。私が望んだ事だもの。」

「俺の家に来ればいい。狭いけど、遠慮は無用だ。」

そう言って、グレイブは私を自宅に迎え入れてくれた。


だが、そこからの日々は、想像していた甘い同棲生活とは程遠いものだった。

生真面目なグレイブは、同じ屋根の下で暮らしているにもかかわらず、手を握るのさえぎこちない。

私がそっと顔を近づけても、彼は気まずそうに視線を逸らし、

「い、今はその……だめだ」と言って距離を取ってしまう。

「……ねえ、私って、魅力ないの?」


ある晩、私は思い切って聞いた。

するとグレイブは慌てふためき、耳まで赤くしながら叫んだ。

「違う!違うからな!?お前は十分すぎるほど綺麗で……むしろ、綺麗すぎて、なんだか……怖いというか……」

「……怖い?」

「だって……アーリンはお姫様だろ。俺なんかが気軽に触れていい存在じゃないって、どうしても思っちまうんだよ……」

その言葉に私は呆れ、そして微笑んだ。


「……私、ただの“逃げてきた令嬢”よ?」

「違うさ。俺にとっては、何より大切な人だ。」

グレイブは照れ隠しに笑った。
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