婚約者が妹と結婚したいと言ってきたので、私は身を引こうと決めました

7、救出

朦朧とした意識の中、助けを呼ぼうと口を開くけれど、声が出ない。

体も思うように動かせず、私はただベッドに横たわるだけだった。

ふと視線を向けると、ベッドの脇にクリフが座っている。

「アーリン、おはよう。」

その声に反応して、かすかに唇が動いた。

「クリフ……」

「今日もアーリンが側にいる。なんて幸せな日なんだ。」

そう言って、彼は私の頬にそっと触れた。

指先は優しいのに、その温もりがどこか怖かった。

「公務は?」とやっとの思いで問いかけると、クリフは満足げに微笑んだ。

「終わらせてきたよ。アーリンと少しでも長く一緒にいたくてね。」

その瞳は昔、私を真っ直ぐに見つめてくれたあの頃と同じ。

だけど、今は何かが違う。何かが狂っている。

「アーリン、もっと側にいってもいい?」

甘えるような声で囁かれ、私はかすかに首を横に振ろうとしたが――力が入らない。

ただ、彼の視線を受け止めることしかできなかった。

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