家族に支度金目当てで売られた令嬢ですが、成り上がり伯爵に溺愛されました

第2部 初夜の誤解と、優しい眼差し

私は結婚式の前日に、エルバリー家を去ることになった。

部屋の荷物を一つずつ整理していると、思い出が胸にこみあげてくる。

少女の頃に描いた落書き、姉妹で取り合ったリボン、母に買ってもらった古びた本。

手を止め、窓の外を見つめた。

「この家とも今日が最後なのね……」

思わず呟く。

確かにこの家には、痛い思い出もある。

けれど、それ以上に、私の人生の根っこがある場所だ。

淡い夕陽が、カーテン越しに部屋を包む。

いろいろあったけれど、やっぱり、寂しい。

胸が少しだけ、きゅっと締めつけられた。

「何かあったら、直ぐに帰ってくればいいわ。」

自分に言い聞かせて、私は最後に刺繍の入ったウェディングドレスをまとめた。

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