あなたの子ですが、内緒で育てます

30 王のたくらみ

 ――ルドヴィク様が、ロゼッテを育てることを拒んだ。
 
 それは私たちだけでなく、デルフィーナにも伝えられた。
 捕まったデルフィーナの望みは、ロゼッテをルドヴィク様の元で、育てることだった。
 王宮では、信用できないと思われたのだろう。
 その気持ちはわかる。
 私も自分が一番信用できる人間に預けるだろう。

「セレーネ?」

 無意識にザカリア様を見つめてしまっていたようで、目が合った。

「どうかしたか?」
「いえ……。ザカリア様がいてくださってよかったと、思っていたところです」

 以前なら、微笑まなかったザカリア様だけど、今は違う。
 ルチアノといると、自然と笑顔になることが多く、今では自然に微笑まれるようになった。

「それは、こちらもだ。領地の者が、寂しいと手紙に書いて寄越すくらいだからな」
「嬉しいですわ。落ち着いたら、ザカリア様の領地で休暇を過ごしたいと思ってますの。不思議な話ですけど、ザカリア様の領地は穏やかで、私の故郷のように懐かしく感じます」

 私の人生で、一番穏やかで幸福だった時間を与えてくれた場所。
 ルチアノが独り立ちしたら、小さなお屋敷で静かに暮らしたい。
 お妃候補の頃から、私が望んでいたのは、そんなささやかな暮らしだった。
 
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