あなたの子ですが、内緒で育てます

31 忌まわしい力 ※ザカリア

『ロゼッテ王女は王宮にて、お育てするようにと、ルドヴィク様がおっしゃっておりました』

 その言葉を兄上の 侍従(じじゅう)から、聞いた時、俺はなにも答えることができなかった。

 ――兄上は、自分の娘であるロゼッテを捨てるのか。

 兄上は孤独を味わったことがない。
 贅沢に慣れ切った兄上は、どれほど自分が恵まれているのか、わからないのだ。
 セレーネやルチアノと、共に城で暮らし始めてから、家族がどんなものであるか、ようやく理解できた俺とは違う。
 
 ――簡単に捨てられるものではない。
 
 二人を守るためなら、俺はなんでもしよう。
 今の俺には、それくらい大事な存在になっていた。

「ジュスト。周囲を見張ってくれるか」

 ジュストは黒い目を細めた。
 俺がなにをしようとしているのか、ジュストにはわかったのだ。

「力を使われるのですか?」
「ああ」
「わかりました」

 俺の力がなんであるか知っているジュストは止めなかった。
 ジュストを連れ、ロゼッテ王女の部屋へ向かう。
 
「わたし、馬鹿じゃないもん……馬鹿じゃない……」

 暗い部屋の中から聞こえてくるのは、ロゼッテの声だった。
 耳を塞ぎ、頭をクッションで覆い、震えている。
 ずっとこの調子だった。

「悪くない、悪くないのに……」
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