あなたの子ですが、内緒で育てます

34 憎しみを越える理由

「デルフィーナ! 駄目!」

 駆け寄り、必死にデルフィーナの手を掴む。

「セレーネ、手を離して! わたくしはザカリア様を殺さなくてはいけないのっ……」

 ザカリア様は、こうなることがわかっていたのか、まったく動じておらず、デルフィーナの短剣をサッと奪った。

「兄上に、俺を殺すよう命じられたか」
「ち、違うわ! ルドヴィク様は関係ないわっ!」
「ジュスト、剣を抜くな。デルフィーナに殺意はない。死ぬために戻ってきただけだ」
 
 暴れていたデルフィーナは、ザカリア様の言葉を聞き、おとなしくなった。

「なぜ、わかったの……」
「渡された睡眠薬を使わなかったからだ。兄上は俺に睡眠薬を飲ませ、確実に殺せと指示した。違うか?」
「まるで、わたくしの心がわかるみたい……いいえ、わかるのね? ロゼッテの力で……」

 ザカリア様がロゼッテの力を奪い、心を読めるようになったことに、デルフィーナは気づいたようだ。
 殺意がないと言い切れたのも、力を使ったから。
 
「ロゼッテを王宮から追い出し、王女の地位を奪うために力を失わせたのでしょうっ……! なんてひどいの!」
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