あなたの子ですが、内緒で育てます

6 無能な妃と呼ばれて

 ――また夢を見ていた。

『ザカリア様から、戻るよう命じられました』
『急だな』

 兵士を向かわせようとしていたルドヴィク様は、ジュストが自分から去ると言い出したことに驚いていた。
 デルフィーナは悔しそうにジュストを睨んでいる。
 ジュストが去った後、デルフィーナが呟く。

『セレーネの周りから、誰もいなくなったわ。お妃候補時代は、大勢の取り巻きがいたけど、今は一人。わたくしの気持ちが、これでわかったでしょう』

 ――取り巻き?

 心当たりがない。
 記憶にあるのは、侯爵家で受けた厳しいお妃教育だけ。
 
『あとは、わたくしを馬鹿にしていたセレーネの顔を醜い顔にしてやるだけだわ』

 デルフィーナは、私からすべて奪わなくては気が済まないのだ。
 危険だと、誰かが言った。
 その『誰』なのか、私には見えない。
 確認したいのに、目が覚めてしまった。

「最近、なんだか眠いわ」

 自分の命が危ないのに、眠いなんておかしい。
 体も重く感じる。 

「きっと疲れているのね……」

 夕暮れの光が部屋を照らす。
 今日、ジュストの手を借り、逃げ出す算段になっていた。
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