あなたの子ですが、内緒で育てます

8 身籠っていた子供

 ――今頃、デルフィーナはいなくなった私を探しているだろう。
 
 目立たぬよう暗い色のドレスに着替え、わずかな手荷物だけ持って、王宮から逃げ出した。
 逃げる経路はザカリア様から教えていただいた。
 王族だけが知る隠し通路から、外に出ることができたのだ。
 ザカリア様は注意を引くため、私と別に王宮から出た。
 王宮に、ザカリア様がいる間は注意がそちらへ向く。
 うまく逃げた先の出口では、ザカリア様が乗った馬車が待っていた。
 
「銀髪は目立つ」

 フード付きのマントを渡され、髪が見えないようフードの中へ隠す。

「セレーネ王妃。これからどうするつもりだ」
「……もう。妃ではありませんわ。セレーネとお呼びください」

 侯爵家にすら戻れないのだから、侯爵令嬢でもない私。

「ああ、そうか。では、セレーネ」

 ザカリア様は笑顔のない方だった。
 ルドヴィク様の笑顔が、本物の笑顔であったかどうかわからないけれど、表面上は、私に笑顔を向けてくれていた。
 でも、嘘の笑顔であったなら、笑顔がないほうがマシなのかもしれない。
 幸せだった日々は、うわべだけの偽物だったのだから―――馬車の窓から見える王宮。
 遠ざかる王宮を見て、涙がこぼれた。
 
 ――私だけが、うまくいっていると思っていたなんて……馬鹿みたい。
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