あなたの子ですが、内緒で育てます

9 王の血を引く子

 私が目を覚ましたのは、倒れてから二日目の朝のことだった。
 ザカリア様はベッドではなく、剣を抱えたまま、ドアを背に座っていた。
 古い宿屋は、階段がきしみ、誰かが上がってくるたびに音がする。
 追っ手が来ないか、警戒していたのだろう。

「ザカリア様……。申し訳ありません……」
「セレーネ。具合はどうだ?」
「眠ったお陰で、だいぶよくなりました」
「そうか。目が覚めたばかりで悪いが、すぐにここを出る」

 カーテンの隙間から、兵士の姿が見えた。
 兵士が王都じゅうを巡回し、私を探しているのだろう。

「医者のほうは、俺の手の者を使った。他言されない」

『子供を身籠っておられます』――あれは夢ではなかったのだ。

「私……ルドヴィク様の子を……」
「そうらしいな」

 私とザカリア様の間に沈黙が訪れた。
 先に沈黙を破ったのは、ザカリア様だった。

「道は二つ。一つは王の子だと言って王宮に戻る。もう一つは、このまま逃げ、王の子を隠れて育てるかだ」

 デルフィーナから身を隠し、安全な場所で子を育てる。
 ザカリア様は自分の経験から、王の寵愛を失った妃の元で育つ子の不憫さがわかるのだろう。

「王宮へ戻っても、デルフィーナによって苦しめられるでしょう。実家の侯爵家も、私と子供を道具にし、宮廷で権力を握り、好き放題に振る舞うだけです」

 ――国のためにはならない。

 むしろ、私が王宮に戻ることは害でしかなかった。
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