あなたの子ですが、内緒で育てます

10 嫉妬 ※ルドヴィク

 『ザカリアと逃げたのではないか?』

 それを考えるだけで、気持ちが落ち着かず、いらいらしていた。
 心を落ち着けるため、楽隊を呼び、音楽を奏でさせたが、まったく効果がない。
 思えば、今まで、奪われることがなかった。
 欲しいものはなんでも与えられ、妻も自分のひと声で決まった。
 
「捨てた妻が、どこにいようと、俺の知ったことか!」

 デルフィーナの前で、感情を見せられない。
 腹の中にいる子に、心を読まれてしまうからだ。
 俺がセレーネを少しでも気に掛けると、大騒ぎされて面倒なことになる。

「冷静にならねば……。王の子を身籠っているデルフィーナだけが、俺の妻だ」

 俺がセレーネを捨てたのだ――だが、なぜか面白くない。
 元々、俺に別れる気はなかった。 
 別れずに王宮に置いてやったのに、セレーネが勝手に出ていったのだ。
 
「王妃のくせに……いや、王妃ではないか」

 セレーネが俺の妻、もう王妃でないことに気づいてしまった。
 側妃にするのも、デルフィーナが嫌がったため、セレーネの身分は元王妃となり、侯爵令嬢に戻った。
 つまり、別れた妻、他人である。
 不貞の罪にも問えない。

「くそっ!……いや、なにを悔しがる必要がある。だいたい、セレーネがザカリアの元にいるとは限らん。力がなくなると、無力なものだな」
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