あなたの子ですが、内緒で育てます

15 約束したこと

「これでよかったのよね……」

 眠るルチアノの頬を撫でた。
 今日、使者を迎えた時のザカリア様の苦しそうな顔を見て、大臣たちのために王宮へ戻ることはないだろうと思った。 
 それはルチアノも同じだったようで、自分から王の子であることを名乗った。
 幼いながらに考え、大切な人々を守ろうとしたのである。

「ルチアノの安全を考えたら、ここにいるべきかもしれないけど……」

 王宮へ戻ることを考えたら、眠れず、ガウンを羽織り、バルコニーから庭へ出た。
 空には星が瞬いている。
 ザカリア様の領地で過ごした七年は、あっという間だった。
 私の人生で、最も穏やかで幸せに過ごせた日々。
 この日々をくれたザカリア様や領地の人々に、返せるものがあるとするなら、今、この時、王宮へ戻ることが最良の選択だった。

「私はデルフィーナから、ルチアノを守らなくては……」

 けれど、次はデルフィーナに負けて追い詰められたら、私だけで済む話ではない。
 幼いルチアノはもちろんのこと、後見を引き受けてくれたザカリア様にも迷惑がかかる。
 夜風がいつもより冷たく感じたその時、同じように庭園を歩く人がいた。
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