婚約破棄されたので辺境で新生活を満喫します。なぜか、元婚約者(王太子殿下)が追いかけてきたのですが?
プロローグ
 授業が終わり、エステルは生徒会室へと向かっていた。
 ターラント国立エルガス学園は、良家の子女が通う学校であり、庶民であっても優秀な生徒であれば特待生制度によって入学できる。
 その学園の生徒会長を務めるのが、高等部二年となったこの国の王太子、セドリック。彼はまた、エステルの婚約者でもあった。エステルもヘインズ侯爵の娘であり、王太子の婚約者として身分的にもなんら問題はない。
 その彼が放課後に生徒会室に来るようにとエステルに命じたのだ。
 純白の扉の前に立ったエステルは呼吸を整え、まっすぐに腰まで届く漆黒の髪をそっと直してからゆっくりと扉を叩く。
 ――コツ、コツ、コツ、コツ。
 しかし返事はない。もう一度ノックをしようかと思っていたときに「どうぞ」と声が聞こえてきた。
「失礼します。エステル・ヘインズです」
 大きな窓から差し込む太陽の光によって、室内は明るく照らされている。窓が少し開いているのか、穏やかな初秋の風が入り込み、レースのカーテンをひらひらと揺らす。
 ベージュの壁には歴代の生徒会長の絵画が飾ってあり、ワイン色の絨毯の上には役員たちが顔を合わせるために使うテーブルやソファが置いてある。
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