婚約破棄されたので辺境で新生活を満喫します。なぜか、元婚約者(王太子殿下)が追いかけてきたのですが?
第五章:でんわを作ります!

1.

 アドコック辺境領に、ギデオンの友人の子というセリオがやってきてからというもの、なぜか領内が色めき立っている。というのも、セリオは客観的に見ても「いい男」だった。
 ギデオンの元で領地経営を学ぶためにやってきたとのことで、ギデオンと共に行動することが多い。屈強なギデオンに、王子様のようなセリオ。見目対照的な二人が並べば、ギデオン派かセリオ派かと、女性たちが騒ぐようだ。もちろん当の本人には耳に入っていないが、それもそろそろ時間の問題だろう。
「最近、エステル様も楽しそうで……」
 エステルの髪を結わえながら、いきなりハンナがそんなことを言い出した。
「えぇ、楽しいけれど。どうしたの? 急に」
「いえ……こちらに来られたばかりのときは沈んでいた表情も、一年も経たずに明るくなって何よりです」
「そうね……」
 セドリックに婚約解消を告げられ、学園を退学してからまだ一年も経っていない。だというのに、学園に通っていたのは遠い昔のように感じるのだ。
「それに、セリオさんが来られてから、エステル様も余計に楽しそうで……」
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