婚約破棄されたので辺境で新生活を満喫します。なぜか、元婚約者(王太子殿下)が追いかけてきたのですが?

5.

* * *

 ギデオンは、エステルが自分の娘だと気づいただろう。その事実をギデオンに知られることを、ヘインズ侯爵はいいとも悪いとも言わなかった。エステルは実子でなくとも、自分たちの娘に違いはないというのが侯爵の言い分だからだ。だからこそ、ギデオンにその事実を伝えていいものかどうかも悩んでいるようにも見えた。
 そのため必要とあらば、セドリックのほうから伝えても問題ないと、そんな取り決めをしていたのだ。
 まさかここに来た初日から、エステルの出自について口にすることになるとは、セドリックも思っていなかった。しかし、それでよかったと思う。
 なによりも、エステルがギデオンの嫁候補と思われているからだ。親子ほど年の離れている二人だというのに、噂好きの人間というのはどこにでもいるようだ。いや、それだけ皆、ギデオンとエステルに期待を寄せているのだろう。
 セドリックはギデオンの仕事を手伝うこともあるが、ほとんどをエステルの側で時間を過ごしていた。もちろん彼女は魔導職人として、地下室にこもることも多いが、最近は『でんわ』開発のために、屋外で実験、検証を行い、それが終われば地下室に戻って改良する毎日だった。
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