婚約破棄されたので辺境で新生活を満喫します。なぜか、元婚約者(王太子殿下)が追いかけてきたのですが?

3.

 モートンの知り合いとはアドコック辺境伯である。彼の城で、女性の魔導職人は働いているらしい。
 アドコック領は王都から馬車移動で五日の距離。容易に行き来のできない場所だ。
 馬車にガタガタと揺られながら、エステルはふとセドリックのことを思い出していた。
 彼と婚約したのは、十五歳のとき。彼が立太子の儀を経て、王太子となったときだ。
 そろそろセドリックも婚約者を決める時期だという話は、世情に興味のないエステルの耳にも届いていた。その話を聞くたびに、セドリックが手の届かない場所へ行ってしまうような、そんなもどかしくも切ない気持ちに襲われたものだ。しかしエステルが婚約者に決まったという話を耳にしたときには、飛び上がるほど歓喜した。
 政略的でありながらも、二人の気持ちが通じた婚約だと、少なくともエステルはそう思っていた。
 それでも婚約したからといって、二人の関係が大きく変化するわけでもない。
 だがエステルは、少しずつ王太子妃教育を始めていた。学園の授業が終われば王城へ寄り、そこで数時間、教育を受けてからヘインズ侯爵邸に戻る。
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