婚約破棄されたので辺境で新生活を満喫します。なぜか、元婚約者(王太子殿下)が追いかけてきたのですが?

2.

 エステルは息を吐き、アビーの大胆さに感心しながらも、胸の鼓動が止まらない。
「……アビーさん。怖かったですよ」
 エステルの声は震え、室内の空気に溶けそうだった。
「ごめんごめん。でも、大事なことじゃない? 彼らが私たちに魔導具を作ってもらいたいってことを考えたら、交渉に使えると思ったんだよね」
 アビーは肩をすくめ、いたずらっぽく笑った。
「あの人たち、ヴァサル国の訛りがありましたね」
 エステルが思い出したように言うと、アビーは「そうなの?」と首を傾げる。
「ごめんね、私、ほら。魔導具にしか興味がないから。そういうのは疎いのよね。魔導具が関われば別だけど」
 アビーの言いたいことはよく理解できる。
「私たち、ここでどんな魔導具を作らされるんでしょうね。ヴァサル国の人がわざわざ私たちを捕まえた理由がわかりません」
 いつもと変わらぬ魔導具室で製作に励んでいただけなのに、気がついたらヴァサル国の人間に捕まっていただなんて、悪夢でしかない。
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