婚約破棄されたので辺境で新生活を満喫します。なぜか、元婚約者(王太子殿下)が追いかけてきたのですが?

5.

 目を開けると、視界に飛び込んできたのは見知らぬ天井だった。だが、身体を包むベッドはふかふかで、柔らかなシーツの感触が心地よい。
「目が覚めたか?」
 穏やかな声に、エステルはゆっくりと視線を動かした。
「え? セドリック様……? ゴホッ……」
 喉がカラカラに渇き、声がかすれる。咳き込むと、胸に軽い痛みが走った。
「エステル。大丈夫か?」
 ベッドの脇に立つセドリックが、心配そうにエステルの顔をのぞき込む。その表情は、あの日、婚約解消を告げたときの冷たい顔とはまるで別人のようにあたたかかった。
「ごめんなさい、喉が……」
 エステルは弱々しく呟き、身体を起こそうとした。
「今、水をやる」
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