婚約破棄されたので辺境で新生活を満喫します。なぜか、元婚約者(王太子殿下)が追いかけてきたのですが?

2.

 辺境伯との顔合わせは、思っていたよりも早くやってきた。ハンナと一緒にお茶とお菓子を堪能していたところ、ジェームスが「旦那様がお戻りになりました」と呼びに来てくれたのだ。
 どうやらアドコック辺境伯は、これからやってくる冬のために領地内を見て回っていたとのこと。降り積もる雪に備えて、風雪よけの設置や樹木の囲いや雪吊り、保存食は十分にあるかの確認など、雪国にとっての冬越えの準備はエステルもその大変さはわからない。前世も雪の多い場所には住んでいなかったようだ。
「旦那様、ヘインズ侯爵令嬢エステル様をお連れしました」
 ジェームスの声に「入れ」と中から声が聞こえた。低く太く張りのある声だ。ヘインズ侯爵家の男性は高めの声色をしているので、家族とは違ったその声に、エステルの心がぶるりと震えた。不安なのか期待なのかがわからない。
「失礼します」
 辺境伯の執務室は二階にあった。一階は窓まで雪に埋もれることも多いため、滞在時間の長い部屋は二階以上にあるらしい。
 太陽の光を背に浴びる辺境伯の姿は、後光が差しているかのように影になっており、思わず目を奪われた。
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