婚約破棄されたので辺境で新生活を満喫します。なぜか、元婚約者(王太子殿下)が追いかけてきたのですが?
第一章:辺境へ行きます!

1.

 エステル・ヘインズには、いわゆる前世の記憶というものが存在している。つまり、エステルがエステルとして生まれる前に生きていた人間の記憶である。こことは違う世界に生きていた人間のもので、環境も文化もすべてが異なる世界だった。
 その世界は、地球という星にある日本という国。そこの特定の人物までは覚えていないが、日本で暮らしていたという漠然とした記憶だけがあった。
 日本にはテレビとかパソコンとかスマートフォンとか、とにかく今では想像もつかないような高度な道具がたくさん存在していた。
 エステルとしての生活が特別不便だとは感じていないが、そういったものがあれば便利だなと思うことはある。
 この世界に電気はない。しかし、電気の代わりにあるのが魔力であり、魔力は魔石と呼ばれる石にとじこめられている。そして、魔石を使った道具が魔導具と呼ばれていた。その魔導具の第一人者として知られているのが、エステルの父モートンであった。
 エステルが言葉を話せるようになったときから、モートンに『こんな便利なものがあったらいいな』とそれとなく伝えていたからだ。
 その結果、父が魔導灯と呼ばれる光源を開発したのは今から十五年前。これによって、ろうそくやガス灯による明かりは魔導灯へと置き換わっている。
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