婚約破棄されたので辺境で新生活を満喫します。なぜか、元婚約者(王太子殿下)が追いかけてきたのですが?
第四章:魔導具のお手入れは大事です!

1.

 降る雪がべったりと水分が多くなった。これは、春の訪れがすぐそこまできている証拠だという。いつもであれば、こういった水分を多く含む雪の雪かきは、骨が折れるものだが、エステルとアビーが作った除雪魔導具のおかげで、今年の雪かきは楽だったと大好評だった。
 雪釣りや雪囲いを外せば、春が来たと、領民の誰もが思うらしい。それでも朝晩はまだ冷え込むため『こたつ』は欠かせないとか。
 こうやって作った魔導具が人の役に立ち、彼らの喜ぶ顔が見られただけで、エステルは魔導具を作ってよかったなとしみじみ思う。魔導具のことを考えていれば、セドリックを失った隙間を埋められる。
 そう思っていたのに、夜、寝る前にぽつっと彼のことを思い出してしまうのだ。
 アビーのように「魔導具が恋人です」と周囲には言ってみるものの、セドリックを好きだったという事実は消せない過去。
 彼も高等部三年に進級しただろう。エステルも同じように進級するはずだった。そして一年後、卒業と同時に結婚の準備に入り、その半年後には結婚式を挙げる予定だった。
 すべて「だった」の過去形。
 そんな未来は永遠にやってこないのだ。
 除雪魔導具の出番もなくなる季節を迎え、次の雪シーズンに向けて手入れをしていたときに、ジェームスがエステルを呼びに来た。
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