義弟の甘い罠は壊れるほど狂おしく【長編版】

9・違和感の正体

「日記の違和感の正体がわかった」
「……え!?」

 あれから軽井沢さんは、忙しい合間を縫って日記と向き合ってくれていたらしい。
 誰もいなくなった事務所のソファに腰を下ろすと、先生は日記を開く。
 テーブルに温かいほうじ茶のマグカップを置くと、ほのかな香ばしさが室内に広がる。
 
「まず、彰人くんは毎回1ページずつ、ページを開けることなく日記を書いている」
「そうですね、日が変われれば、次のページになってます」

 1ページずつめくっていく。さらりと数行書いた日もあれば、びっしりとページ丸ごと書いている日もある。
 
「次に、この日記は横書き──つまり、左開きのタイプだ。なのに、例の文章は──」
「……あっ!!」

 左側の1ページを空けて、右側に書かれている。

「ここだけ空いているのは、どう考えても不自然ですよね……」
「……まあ、彰人くんがなんらかの理由で右側に書いた可能性もなくはないが……」

 軽井沢さんは、腕を組んで視線を上げた。
 ずっと引っかかっていた違和感は、これだったんだ。
 右側に書かれた文言。彰人さんが毎回1ページずつ書いていたのなら、左側が空いているのはおかしい。
 これじゃあ、まるで……。

「誰かが、彰人さんの日記に書き加えた……?」
「まあ、状況証拠でしかないけどね」
「そんな……」

 思わず手元のカップを握りしめた。冷めてしまったほうじ茶がわずかに揺れ、表面に小さな波紋が広がる。
 日記はクローゼットの奥深くに仕舞われていた。
 誰かが持ち出したなんて、考えにくい。
 それに、うちに出入りしていたのは私と律、お父様くらいしかいない。
 もちろん、軽井沢さんや保科さん、真子さんを招いたことはあるけれど、それは結婚した直後、一度きり。
 ──それなら、誰が。

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