義弟の甘い罠は壊れるほど狂おしく【長編版】

18・脅迫

 あれほど胸につかえていたものが、ほんの少しだけ軽くなった気がした。けれど、応接室の空気は相変わらず重い。問題が山積みで、まだわからないことだらけだ。

「そうだ。お父様、軽井沢先生」

 思い出して、彰人さんの遺品であるシルバーのスマホをテーブルの上に置く。
 
「録音データを、一緒に聞いてほしいんです」
「ああ、そうだったな」

 私は再生ボタンを押して、最初から音声を流す。
 二人とも背筋を伸ばし、緊張した表情で耳を澄ませていた。
 養父の口から、ぎりっと奥歯を噛み締める音がする。
 いつもは途中でふざけてしまう軽井沢さんも、こればかりは黙って聞いていた。
 やがて、さっき私が部屋で聞いていたところまで戻ってきた。

『それで、どうすれば?』
『アタシの言う通りに動いてちょうだい』
 
 ここから先は、私も初めて聞く部分だ。

『このまま、電話をしながら非常口から出て。扉を完全に閉めてから、電話を切らずにしばらく会話をして』

 彰人さんが非常口から出た理由──
 茉莉乃さんが、指示をしていたのだ。
 彰人さんは何かの理由で脅されていて、断ることができなかった。
 
 しばらく沈黙が続く。なんとなく環境音のようなものが聞こえるけれど、彰人さんの様子はまったくわからない。茉莉乃さんに悟られないようにか、息遣いまで殺しているようだった。
 キィ、と金属が軋むような音が聞こえた。
 おそらく非常口を開けたのだろう。すぐにバタンと扉が閉まる音がして、足音が少しだけ反響している。
 この先に、彰人さんがどうなったのか──真実がある。
 ごくりと唾を飲み込み、画面を凝視して耳を澄ませる。
 その緊張を断ち切るように、向かい側の手がスマホをさらった。

(えっ……?)

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