甘く苦く君を思う

拒絶と別れ

休日の午後、私のマンションの前にふたりの人物が立っているのに気がつき足を止めた。
品のあるスーツを着た白髪の混じる男性と上品な紺のワンピース姿の女性だ。
柔らかい笑顔を浮かべていたが、なぜかその雰囲気には圧倒的な威厳があった。

「……相川、沙夜さんですね?」

男性が静かに口を開く。その雰囲気に飲まれていると、私の返事を待つ事なく了承と受け取った男性は話を続ける。

「私どもは高倉昴の両親です」

その言葉に心臓が跳ねた。そして隣に並ぶ女性が穏やかに微笑んでいた。

「息子がいつもお世話になっております」

女性に深く頭を下げられ、その優雅な所作に私も慌てて頭を下げた。

「少しお話がしたいのですが、いいかしら。将来の話をしません?」

物腰とは違いふたりの無言の圧力を感じ、部屋に招き入れた。ワンルームの小さな部屋にふたりは少し驚いたような表情を一瞬浮かべるが、静かにソファに腰を下ろした。そしてスーツの胸ポケットから分厚い封筒を取り出すとテーブルに置かれた。

「これはあなたに対する誠意です。どうか受け取って息子から身を引いてもらえませんか」

封筒の厚みを見ただけでその中身は容易く想像できた。
ーーお金。
心臓が大きく脈打つのを感じ、手が震える。

「そんなもの、入りません」

ようやく出した声は震えていた。
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